オフィスの選びかた

中小企業の総務が決裁する「契約」と「買いもの」を、実際に決裁した側の目線で選ぶための記録。

勤怠管理システムの乗り換え、契約前に総務が確かめること

2026-08-31 勤怠管理継続契約の見直し稟議の通し方労務管理システム乗り換え

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この記事を読むと、勤怠管理システムを「入れるかどうか」ではなく「どの条件で契約するか」が決まります。機能比較表は各社のサイトを見れば足ります。ここで書くのは、契約書と運用でつまずいた話です。とくに、やめるときに何が起きるかを先に書きます。継続契約は入るときより出るときに詰まります。

替える理由を、法改正ではなく自社の詰まりで言えるか

勤怠管理を替えたいという話は、だいたい二つの動機から出ます。

一つは「法改正に対応できていない」という不安。もう一つは「毎月の締め日に総務が残業している」という現実です。稟議で通るのは後者です。前者は経営者から「今のままでも罰則は出ていない」と返されて止まります。

ですから最初にやるのは製品比較ではありません。今の締め作業を分解して書き出すことです。

  • タイムカードや出勤簿を集めるのに何日かかっているか
  • 打刻漏れの確認で何人に何回連絡しているか
  • 有給休暇の残日数を誰がどこで管理しているか
  • 残業時間を給与計算に渡すとき、手入力しているか

この4つを1か月分だけ実測すると、たいてい数十時間規模の作業が見えます。ここが数字になっていない稟議は、金額の話だけになって負けます。逆にここが出ていれば、月額の妥当性は自分で説明できます。

打刻方式は機能一覧ではなく、人の動きで決まる

打刻の方法は大きく分けて数種類あります。ICカード、生体認証(指や静脈で本人確認する方式)、PCのブラウザ、スマートフォンアプリ、GPS付きの打刻です。

ここで失敗しやすいのは、本社の事務職を基準に選んでしまうことです。実際に困るのは例外の人たちです。

  • 直行直帰の営業
  • 現場に出る技術者や配送担当
  • スマートフォンを会社から支給していない人
  • 共用PCしかない製造・倉庫の現場
  • シフト制で深夜をまたぐ勤務

私物のスマートフォンで打刻させる場合、位置情報の取得範囲を先に説明しないと必ず反発が出ます。「監視されている」という話になり、導入が半年遅れることがあります。事前に「取得するのは打刻した瞬間の位置だけ」といった説明ができるかを、営業担当に確認しておきます。

深夜をまたぐ勤務や変形労働時間制(一定期間で労働時間を平均する制度)は、対応しているシステムとしていないシステムが分かれます。自社の就業規則を持って、そのまま設定できるかを試用期間中に必ず入力して確かめます。

料金表に出てこない費用は、初期設定と休職者のIDに出る

月額は1人あたり数百円程度から示されることが多いです。ただ、支払総額はそこだけでは決まりません。

カタログに出にくい費用は、おおよそ次のあたりです。

  • 初期設定の支援費用。就業規則の反映を業者に頼むと、数万円から数十万円程度になることがあります。
  • 打刻用の機器代。ICカードリーダーや据置端末は別売りが一般的です。カードの追加発行費も後から出ます。
  • 給与計算ソフトとの連携オプション。標準機能ではなく追加課金の場合があります。
  • サポートの区分。メールのみは無料で、電話は上位プランというケースがあります。
  • IDの数え方。休職者、産休育休中、内定者、役員をカウントするかは各社で違います。ここを確認せずに人数を見積もると、請求書を見て驚きます。

もう一つ、値上げの条項です。年ごとに単価改定がありうるサービスは増えています。「改定は何か月前に通知されるか」「そのとき解約できるか」を契約書で見ておくと、あとで社内に説明できます。

やめるときに詰まるのは、データの返還と締め日

ここが本題です。私が一番痛かったのは、乗り換えのときでした。

勤怠のデータは、やめたあとも会社に保存義務があります。賃金台帳や出勤簿の類は数年単位で保管が必要です。ところがクラウドのサービスは、解約するとログインできなくなります。契約前に確認するのは次の点です。

  • 解約後、データをどの形式で出せるか(CSVやPDFで全期間分出せるか)
  • 解約後に何日間ログインできるか。当日で締められる場合もあります
  • 打刻の生データと、承認済みの確定データの両方が出せるか

もう一つは有給休暇の残日数です。付与日や繰越の履歴は、そのまま移せないことがよくあります。新旧で数字が合わず、期首の残日数を手入力し直すことになります。この作業だけで数日かかると見ておきます。

そして時期です。移行は給与の締め日をまたがせないのが安全です。旧システムで締めきってから切り替えます。年度替わりや有給の一斉付与日の直前も避けます。最低利用期間や年契約の途中解約不可も珍しくないので、更新月の何か月前に判断するかを、導入時にカレンダーへ書き込んでおきます。

誰が運用するかを決めないと、3か月で形骸化する

勤怠システムは、入れれば楽になる道具ではありません。運用する人を決めないと、打刻漏れの山が総務に戻ってきます。

決めておくことは3つです。

第一に、打刻の修正を誰がするか。本人が申請し、上長が承認する形にできるかが分かれ目です。総務が全部直す設計にすると、前より忙しくなります。

第二に、承認の締切をいつにするか。「翌月3営業日まで」といった社内ルールを、システムより先に文章で決めます。決めずに入れると、承認が止まったまま給与計算日が来ます。

第三に、管理者のアカウントを何人持つか。担当者1人だけだと、その人が休んだ月に締められません。少なくとも2人は操作できるようにします。

導入前に、管理職向けの説明を30分でも用意します。ここを省くと「使い方がわからない」という理由で紙の残業申請が復活します。実務では、システムの機能より、この社内合意のほうが効きます。

稟議は月額ではなく、手戻りの時間と労務リスクで書く

稟議書に月額だけ書くと、「今のタイムカードなら費用はゼロだ」と言われて終わります。書く順番を変えます。

  • 今の締め作業にかかっている時間(実測した数字)
  • その時間を人件費に換算した金額
  • 残業時間の集計ミスが起きたときの影響(未払い賃金の遡り精算、是正勧告への対応工数)
  • 年5日の年次有給休暇の取得義務を、いま誰がどう追いかけているか

この4行があると、金額の話が費用対効果の話に変わります。数字は盛りません。実測した1か月分だけで十分です。

もう一つ効くのは、選択肢を3つ並べることです。「現状維持」「今のまま人を増やす」「システムを入れる」の3案を並べ、それぞれの年間コストを書きます。決裁者は比較があると判断しやすくなります。

最後に、やめるときの条件を稟議書に1行入れておきます。「最低利用期間は約1年、データはCSVで全期間出力可」と書いてあると、次に困った人が助かります。

で、どうすればいいか(進める順番)

順番はこうです。

1. 今の締め作業を1か月だけ実測する。誰が何時間使ったかをメモする。2. 例外の働き方を書き出す。直行直帰、シフト、深夜跨ぎ、私物スマートフォンの有無。3. 候補を3社程度に絞る。機能一覧ではなく、2で書いた例外を全部投げて回答をもらう。4. 無料試用で、自社の就業規則を実際に設定してみる。有給の付与ルールと残業の集計まで通す。5. 契約書で、最低利用期間、解約通知の時期、単価改定、解約後のデータ出力を確認する。6. 承認フローと締切を文章で決める。管理者は2人以上にする。7. 切替は給与の締め後に。旧システムのデータは全期間ダウンロードして社内に保管する。

3社に同じ質問を投げると、回答の速さと具体性で差が出ます。導入後に頼るのはその窓口です。試用期間の対応が遅い会社は、締め日の問い合わせでも遅いと考えて構いません。

買う前に確かめること

  • 最低利用期間と、解約通知は何か月前までかを契約書で確認した
  • 解約後に全期間の勤怠データをCSVやPDFで出力できると書面で確認した
  • 自社の就業規則(変形労働時間制・深夜勤務・有給付与)を試用版で設定してみた
  • 休職者や役員をID数に含めるか、単価改定の通知時期を確認した
  • 打刻の修正と承認を本人と上長で完結できる設計になっている
  • 切替時期を給与の締め後・有給一斉付与日の前後を避けて決めた

候補になる分類

クラウド型の勤怠管理サービス(打刻方式を複数選べるもの)

目安:1人あたり月額約200〜500円程度+初期費用0〜数十万円程度

事務所勤務と外勤が混在する会社に向きます。ICカード、PC、スマートフォンを部署ごとに使い分けられるかが分かれ目です。人数が増減する会社ほど、ID単位の課金で調整できる形が扱いやすくなります。

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給与計算ソフトと同じ提供元の勤怠管理サービス

目安:勤怠部分で1人あたり月額約300〜600円程度

勤怠から給与への受け渡しを手入力している会社に向きます。連携が標準機能なら、締め後の転記作業と入力ミスの確認が減ります。すでに使っている給与ソフトを替えたくない場合は、連携が有料オプションかどうかを先に確認します。

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シフト作成・変形労働時間制に強い勤怠管理サービス

目安:1人あたり月額約400〜800円程度

店舗、施設、製造の交替勤務がある会社に向きます。深夜をまたぐ勤務や1か月単位の変形労働時間制を、追加開発なしで設定できるかが選定の軸になります。汎用型では設定しきれず、運用が手作業に戻ることがあります。

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社会保険労務士事務所による勤怠・給与の運用代行付きプラン

目安:月額約3万〜10万円程度(人数と範囲で変動)

総務が兼任1人で、就業規則の設定まで手が回らない会社に向きます。初期設定と毎月のチェックを外に出せる代わりに、費用は自社運用より上がります。契約終了後にシステムの管理権限が自社に残るかを、必ず確認しておきます。

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よくある質問

タイムカードのままでも法律上は問題ないのでしょうか。

労働時間の記録は客観的な方法で行い、賃金台帳などを一定期間保存する必要があります。タイムカードでも記録自体は残りますが、残業時間の集計や年次有給休暇の管理を手作業で追う負担が大きくなります。問題になりやすいのは、記録の有無ではなく集計ミスと確認漏れです。

導入したのに使われない、という失敗はどう防げますか。

打刻の修正と承認を、本人と上長で完結する設計にすることです。総務が全部代わりに直す運用にすると、以前より作業が増えます。導入前に承認の締切を社内ルールとして文章化し、管理職向けの短い説明会を1回入れておくと定着しやすくなります。

解約するとき、過去の勤怠データはどうなりますか。

多くのサービスは解約でログインできなくなり、データも一定期間後に消えます。出勤簿や賃金台帳は会社側に保存義務があるため、解約前に全期間分をCSVやPDFで出力して社内保管します。契約前に「出力できる形式」と「解約後に何日ログインできるか」を書面で確認してください。

人数が増減する会社では、料金はどう見ておけばよいですか。

ID単位の課金でも、休職者や産休育休中の人をカウントするかは提供元で異なります。役員や内定者の扱いも確認が必要です。最低利用人数が設定されている場合、人数が減っても料金が下がらないことがあります。

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