借り上げ社宅の導入、総務が契約前に決める家賃負担と退去時の費用
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借り上げ社宅は「会社が部屋を借りて社員に貸す」しくみです。家賃補助を給与に上乗せするより有利になる場合がありますが、面倒ごとは入居のときではなく、退職・転勤・退去のときにまとめて出てきます。この記事を読むと、社宅規程に何を書くか、自己負担をどう決めるか、退去時の費用を誰が持つかという、総務が契約前に決めるべき三点がはっきりします。判断の順番も最後にまとめます。
家賃補助と借り上げ社宅は、税と社会保険の扱いが違う
まず前提を揃えます。毎月の給与に「住宅手当」として上乗せする方法は、運用は簡単です。ただし手当は原則として給与として扱われ、所得税・住民税の対象になり、社会保険料の計算の元になる報酬にも含まれます。会社も本人も負担が増えます。
一方、会社が大家と賃貸借契約を結び、社員に貸して一定額を本人から徴収する形が借り上げ社宅です。国税庁が定める「賃貸料相当額」という基準額があり、従業員の場合はその一定割合以上を本人から徴収していれば、差額分が給与として課税されない扱いになるとされています。役員の場合は計算方法が別に定められています。
- 割合や計算式は制度として定められており、改正もあり得ます
- 自社の物件で実際にいくら徴収すべきかは、顧問税理士に確認するのが確実です
- 社会保険でも、住宅の貸与は都道府県ごとの現物給与の価額で評価され、本人負担がその価額に満たない場合は差額が報酬に加算される取り扱いがあります
ここを詰めずに「家賃の1割だけもらう」といった決め方をすると、後から給与課税の指摘や、標準報酬の訂正が発生することがあります。導入を決める前に、税理士か社労士に一度、計算方法だけでも当ててもらってください。
契約名義を会社にすると、退職のタイミングで必ずずれる
借り上げ社宅は、会社名義で賃貸借契約を結ぶのが基本です。ここが個人契約の家賃補助と一番違うところで、実務の詰まりどころもここに集中します。
よくあるのは、社員が月末に退職し、部屋の解約予告が1〜2か月前必要だったために、退職後の家賃を会社が払い続ける、という流れです。賃貸の解約予告期間は契約書で決まっており、退職の申し出が2週間前や1か月前だと物理的に間に合いません。
契約前に確かめるのは次の点です。
- 解約予告期間は何か月前か。短縮できるか、違約金で代替できるか
- 入居から一定期間内に解約した場合の短期解約違約金があるか(1年未満で家賃1〜2か月分程度を定める契約は珍しくありません)
- 退職・転勤時、退去日までの家賃を会社と本人でどう分けるか
- 退職後も本人が住み続けたい場合、個人名義へ切り替えられる契約か(大家の承諾が必要です)
社宅規程に「退職の申し出は退去予告期間を踏まえて行う」と書いておき、入居時の同意書にも同じ内容を入れておくと、揉めにくくなります。
初期費用・更新料・原状回復、誰が払うかを先に書く
毎月の家賃だけを見て稟議を書くと、あとで想定外の支出が並びます。賃貸物件には家賃以外の費用がついて回ります。
- 敷金、礼金、仲介手数料、鍵交換費用、火災保険料、保証会社の初回保証料
- 毎月の共益費、駐車場代、保証会社の年間更新料
- 2年ごとなどの更新料と更新事務手数料
- 退去時の原状回復費用、ハウスクリーニング代、残置物の撤去費用
これらを会社負担にするのか、本人負担にするのか、折半にするのかを社宅規程で決めます。決めていないと、入居のたびに個別交渉になり、社員ごとに条件が違うという不公平が生まれます。
とくに退去時です。敷金から差し引かれた原状回復費が想定より大きく、タバコのヤニやペットの傷、通常使用を超える汚損が理由になっているケースがあります。会社名義の契約なので請求は会社に来ます。本人に求償するなら、その根拠を規程と同意書に書いておく必要があります。「通常の使用による損耗は会社負担、故意・過失による損傷は本人負担」といった線引きが一般的な書き方です。
入居時の室内写真を本人に撮らせて総務に提出させるルールも、退去時の交渉材料になります。
社宅代行に任せるか、総務が自分で回すか
借り上げ社宅は、契約が数件なら総務が自分で回せます。増えてくると、物件探し、契約書のチェック、家賃の毎月振込、更新管理、解約手続きが積み上がります。ここで社宅代行サービス(社宅管理代行)を検討することになります。
代行を使う場合、確かめるのは費用の形です。
- 1戸あたり月額いくらの管理料か、契約手続きのたびに発生する手数料か
- 家賃の立替払いをしてくれるのか、会社が直接払うのか
- 最低契約戸数や最低利用期間があるか
- 解約時に、各物件の契約名義や振込先をどう戻すのか
最後の項目が抜けがちです。代行会社が大家との窓口になっている場合、代行をやめると全物件の連絡先変更と振込先の付け替えが一度に発生します。何件までなら自社で持てるかを、戸数の見込みと一緒に考えてください。
自社で回す場合は、担当者が一人に偏らないようにします。物件ごとの契約期限と解約予告期間を一覧表にして共有フォルダに置く。これだけでも、更新料の払い忘れや解約遅れはかなり減ります。
社内で反対が出るのは「対象者の線引き」
稟議で止まりやすいのは、金額よりも公平性です。営業所勤務だけが対象、単身赴任者だけが対象、といった線引きは、対象外の社員から見ると待遇差に見えます。持ち家の社員からは「自分は何ももらえない」という声が出ます。
通しやすいのは、制度の目的を先に書く方法です。
- 採用時に遠方の候補者を取れるようにしたい
- 転勤や異動を命じやすくしたい
- 同じ人件費で、社員の手取りを増やしたい
目的が書いてあれば、対象者を絞る理由も説明できます。そのうえで、対象条件(勤務地からの距離、転居の要否、入社からの年数など)と、上限家賃を地域別に規程へ落とします。上限家賃は「都市部いくら、その他いくら」と幅で持たせると運用しやすくなります。
また、住宅手当を出している会社が借り上げ社宅に切り替える場合、既存の手当をどう止めるかの検討が必要です。手当の廃止は労働条件の変更にあたる可能性があり、進め方によっては不利益変更の問題になります。切り替え時期と経過措置については、社労士に相談してから稟議に出すほうが安全です。
で、どう進めるか
順番を決めておくと迷いません。
1. 目的を一行で書く(採用か、異動の円滑化か、手取り改善か)2. 対象者と上限家賃の案を作る。何人が対象になり、年間いくらかかるかを試算する3. 自己負担額の考え方を税理士に確認する。社会保険の現物給与の扱いも併せて聞く4. 社宅規程の草案を作る。初期費用・更新料・原状回復・退職時の扱いを全部書く5. 賃貸借契約のひな形で、解約予告期間と短期解約違約金を確認する6. 戸数の見込みから、自社管理か代行かを決める7. 稟議には、初年度費用と、退職1件あたりに発生しうる費用(予告期間分の家賃+原状回復)の両方を書く
試算は自社の実額で行ってください。家賃相場も原状回復費も地域と物件で大きく変わるため、他社の平均値を持ち込んでも自社の決裁材料にはなりません。
最後にもう一度。借り上げ社宅で困るのは、入るときではなく出るときです。退去の手順と費用負担を先に決めておけば、制度そのものは総務の手に負える範囲に収まります。
買う前に確かめること
- 賃貸借契約の解約予告期間と、1年未満の短期解約違約金の有無を確認したか
- 自己負担額の算定方法を税理士に確認し、社会保険の現物給与の扱いも聞いたか
- 初期費用・更新料・原状回復費を会社と本人でどう分けるか規程に書いたか
- 退職・転勤時の退去手続きと、予告期間分の家賃負担を同意書に明記したか
- 対象者の線引きと上限家賃を地域別に決め、対象外の社員への説明を用意したか
- 既存の住宅手当を廃止・変更する場合、進め方を社労士に相談したか
候補になる分類
社宅管理代行サービス(戸数課金型/手続き課金型が選べるもの)
目安:1戸あたり月額数百円〜数千円程度+手続きごとの手数料
社宅の戸数が増えて、契約更新や家賃振込の管理が総務一人の手に余ってきた会社に向きます。戸数が少ないうちは費用倒れになりやすいので、何戸から任せるかを決めてから検討するほうが無駄がありません。
これは申し込む形のサービスです。提携が決まりしだい、ここに申込先を載せます。
法人契約に対応した賃貸仲介(社宅斡旋の実績があるもの)
目安:仲介手数料は家賃1か月分程度が目安
会社名義での契約、請求書払い、更新時の書類対応に慣れている仲介であれば、契約ごとのやり取りが短くなります。地方拠点がある会社は、その地域を扱えるかどうかも確認しておきたい点です。
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社宅規程の整備・自己負担額の設計を頼める税理士/社労士
目安:規程作成のスポット依頼で数万円〜、顧問契約の範囲内で対応する事務所もあり
賃貸料相当額の計算と社会保険の現物給与の扱いは、自己流で決めると後から訂正が発生しやすい部分です。既存の住宅手当から切り替える場合は、労働条件変更の進め方も併せて相談できる相手が要ります。
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よくある質問
社員本人の名義で借りて、会社が家賃を払う形ではだめですか。
その形は税務上、住宅手当と同じ扱いになる可能性が高いとされています。借り上げ社宅として扱うには、会社が賃貸借契約の当事者になっているかどうかが重要な点です。個別の判断は顧問税理士に確認してください。
自己負担額は家賃の何割にすればいいですか。
家賃そのものの割合ではなく、国税庁が定める賃貸料相当額を基準に判断します。固定資産税の課税標準額を使った計算式があり、役員と従業員で扱いが異なります。物件ごとに数字が変わるため、算定は税理士に依頼するのが確実です。
退職者が退去せずに居座った場合はどうなりますか。
会社名義の契約なので、家賃の支払い義務は会社に残ります。社宅規程と入居時の同意書に、退職日から起算した明け渡し期限と、超過した場合の費用負担を書いておくことが対策になります。実際に起きたときは弁護士への相談が必要な場面もあります。