法人電力の切り替え、総務が契約前に確かめる違約金と市場連動リスク
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電気代の見直しは、単価表を並べても答えが出ません。決まるのは「契約の縛り」と「値上がりしたときに誰が説明するか」です。この記事を読むと、見積もりを取る前に集める書類、料金メニューの型の見分け方、解約時に詰まる条件、そして稟議での数字の書き方が決まります。安くする話より、後で困らない話を中心に書きます。
単価の比較より先に、契約の縛りを見る
電力の切り替えは、見積書の「1kWhあたり何円」を並べる作業だと思われがちです。ですが実務で問題になるのは、ほぼ契約条件のほうです。
過去に見てきた失敗は、だいたいこの形をしています。
- 単価が安いメニューに切り替えた。半年後に燃料費調整や市場価格の変動で請求額が跳ね上がった。戻したいが契約期間が残っていて解約金がかかる。
- 提案時の削減額は「前年同月の使用量で計算した場合」の数字だった。実際は稼働が増え、削減どころか増えた。
- 切り替え直前に、入居ビルが一括で受電していると分かり、そもそも自社で選べなかった。
どれも、契約前に紙で確かめれば避けられた話です。電気は止まると業務が止まります。だからこそ、安さの前に「やめられるか」「上がったときどうなるか」を先に見ます。
先に結論を言うと、確かめるのは四つです。契約期間、解約金の計算方法、料金の変動部分の仕組み、そして自社の建物で切り替えができるかどうか。この四つが埋まるまで、単価の比較は意味を持ちません。
見積もりを取る前に集める紙は3種類
相見積もりを依頼すると、まず「検針票を送ってください」と言われます。ここで直近1か月だけ送ると、比較になりません。季節で使用量が大きく動くためです。
集めるのは次の3種類です。
- 直近およそ12か月分の検針票、または電気料金の明細(月別の使用量kWhと請求額が分かるもの)
- 現在の契約書または申込書の控え(契約種別、契約電力、契約期間、解約に関する条項)
- 受電設備の情報(自社ビルなら受変電設備の有無、テナントなら賃貸契約の電気に関する取り決め)
検針票には「契約電力」または「契約容量」が書かれています。ここが実務の分かれ目です。おおむね契約電力50kW以上の高圧受電か、それ未満の低圧かで、比較の土台がまったく変わります。高圧の場合は、その年でいちばん電気を使った30分間の値が向こう1年の基本料金を左右する仕組み(最大需要電力・デマンドと呼ばれます)が効いてきます。つまり夏の一時間の空調のかけ方が、翌年の基本料金にまで影響します。
この紙が揃っていない状態で提案を受けると、相手の都合のいい前提で削減額が作られます。まず紙です。
料金メニューの型は大きく3つ。合うのは会社によって違う
名称は事業者ごとに違いますが、中身はおおよそ3つの型に分かれます。
- 固定単価に近い型:単価があらかじめ決まっていて、燃料費調整などの変動幅にも上限や調整ルールが置かれているもの。予算が読みやすい代わりに、相場が下がっても恩恵は小さめです。
- 市場連動型:卸電力市場の30分ごとの価格に連動するもの。相場が落ち着いている時期は安くなりやすい一方、寒波や燃料高で価格が跳ねた月の請求は、想定を大きく超えることがあります。上限のない設計だと、年間予算が崩れます。
- 地域の大手電力の標準メニュー:いわゆる規制料金や標準的な高圧メニュー。突出して安くはないものの、変動の説明がしやすいという価値があります。
判断の軸は「安いかどうか」ではなく「上がった月に社内で説明できるか」です。市場連動型を選ぶなら、上限価格の設定があるか、変動が予算を超えたときに誰が経営層に報告するかを先に決めます。総務が一人で抱えると、値上がりした月に総務の判断ミスとして扱われます。ここは導入前に、経営会議の議事録に「変動リスクを承知のうえで選択」と残しておくと後が楽です。
やめるときに詰まるのは、解約金と切り替えのタイミング
継続契約は、入るときより やめるときに詰まります。電力も同じです。契約書で必ず読む箇所を挙げます。
- 契約期間と自動更新の有無。更新を止めたい場合の通知期限(更新日の何か月前までか)。
- 中途解約時の精算方法。残期間の使用量見込みに単価差を掛ける方式、月額固定の違約金方式など、計算式が事業者ごとに違います。「解約金あり」だけの記載なら、計算式を文書で出してもらいます。
- 供給が続けられなくなった場合の取り扱い。近年、市場価格の急騰で新規受付を止めたり、契約の更新を断ったりした事業者がありました。自社が切られる側になる可能性を想定します。
- 切り替えの実務日程。検針日を基準に切り替わるため、申込から実際の切り替えまで、おおよそ1〜2か月みておくと安全です。年度末や夏前は混みます。
そしてもう一つ。万一どことも契約できない状態になっても、最終保障供給という受け皿があります。ただし料金は割高な設計です。「電気が止まる」ではなく「高い料金で当面つなぐ」形になる、と理解しておくと、社内で不安をあおらずに説明できます。
自社の建物では切り替えられない場合がある
提案を受けて社内調整まで終えてから、そもそも切り替え不可と判明する。これが一番もったいない失敗です。
確かめる点は三つです。
- 入居ビルが一括受電契約をしていないか。ビル全体で受電し、各テナントには専有部の使用量に応じて割り振る方式だと、テナント単独で小売事業者を選べません。この場合の交渉相手は電力会社ではなく、ビルオーナーや管理会社です。
- 電気料金が共益費に含まれていないか。賃貸契約書の電気に関する条項を確認します。含まれている場合、下げる余地は契約更新の交渉に移ります。
- 高圧受電の場合、受変電設備(キュービクルと呼ばれる屋外の金属箱)の所有者と保安管理の委託先はどこか。切り替え自体は設備を触りませんが、点検契約や更新費用は電気料金とは別に発生し続けます。設置から20年を超えていれば、更新工事の話が近いうちに来ます。カタログの削減額には、この更新費用は入っていません。
テナント入居で切り替え不可だった場合でも、打ち手はあります。照明のLED化、空調の運転時間の見直し、デマンドの山を作らない運用など、使用量そのものを下げる方向に切り替えます。
稟議は「削減額」だけで書かない
稟議書に「年間およそ○○万円の削減」と書いて出すと、通ることはあります。問題はその後です。相場が動いて増えた月に、稟議書の数字が一人歩きします。
書き方を変えます。三つの数字を並べます。
- 現状のまま続けた場合の年間見込み額(直近12か月の実績ベース)
- 提案メニューに切り替えた場合の見込み額と、その前提(使用量は前年同、変動部分は直近3か月の水準など)
- 変動部分が想定より上振れした場合の額(悪いほうの想定)
悪いほうの想定を自分から書くと、決裁は通りやすくなります。「総務は上振れも見ている」と伝わるからです。あわせて、解約金の計算式、契約期間、更新拒否の通知期限を稟議の添付に付けます。数年後に担当が替わっても、契約書を探し回らずに済みます。
社内の反対は、たいてい情シスや工場側から出ます。「切り替えで停電するのでは」という懸念です。小売事業者の切り替えは送配電網はそのままで、停電を伴わないのが通常です。この一文を先に説明資料へ入れておくと、会議が短くなります。
で、どうすればいいか
順番はこうです。
1. 直近12か月分の明細、現在の契約書、賃貸契約の電気条項を集めます。ここで切り替え可否が決まります。2. 契約電力を確認し、低圧か高圧かを把握します。高圧なら、年間でいちばん使用が多かった30分(デマンド)がいつだったかも見ておきます。3. 相見積もりは3社程度に絞ります。依頼時に「契約期間」「解約金の計算式」「変動部分の仕組みと上限の有無」を書面で出すよう指定します。この指定に答えられない相手は候補から外します。4. 見積もりを、良い想定と悪い想定の両方で並べ替えます。安い順ではなく、悪い想定の額が予算内に収まるかで見ます。5. 稟議には削減額と上振れ額の両方、契約期間、解約条件、更新拒否の通知期限を添付します。6. 契約後は、更新日と通知期限を総務のカレンダーに登録します。担当が替わっても引き継がれる場所に置きます。
切り替えができない建物だった場合は、使用量を下げる側に予算を回します。まず自社の使い方を測るところから始めるのが確実です。
買う前に確かめること
- 直近およそ12か月分の使用量と請求額を月別に並べたか
- 契約期間・自動更新の有無・更新拒否の通知期限を書面で確認したか
- 中途解約時の精算方法を、計算式まで出してもらったか
- 料金の変動部分の仕組みと、上限価格の設定があるかを確かめたか
- 入居ビルの一括受電や共益費込みで、そもそも切り替え可能か確認したか
- 稟議に良い想定と悪い想定の両方の年間見込み額を並べたか
候補になる分類
小売電気事業者の固定単価に近い法人向けメニュー
目安:契約電力と使用量により変動(初期費用は通常なし)
年間予算を読みたい会社、値上がり時の説明に手間をかけられない少人数の総務に向きます。相場が下がった局面での恩恵は小さめですが、稟議と予算管理が安定します。
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市場連動型・変動型の電力メニュー
目安:市場価格に連動(月ごとに変動)
使用時間帯を動かせる工場や、電気代の増減を月次で経営層に報告できる体制がある会社向きです。上限価格の設定があるかを必ず確認し、ない設計は予算が崩れる前提で判断します。
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電力の一括見積もり・切り替え仲介サービス
目安:無料〜削減額に応じた成功報酬型
複数拠点があり自社で相見積もりを回す時間がない会社に向きます。手数料の出どころ(事業者側か自社負担か)と、切り替え後のトラブル時に誰が窓口になるかを契約前に確かめます。
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クランプ式の電力計測器・電力ロガー
目安:約2万〜10万円
ビル一括受電で切り替えができない場合や、どの設備が電気を食っているか分からない場合に使います。分電盤の回線ごとに測って記録できる型を選ぶと、空調と照明の切り分けができます。
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よくある質問
新電力に切り替えると、停電しやすくなりませんか
電気を運ぶ送配電網は切り替え後も同じ会社が管理するため、切り替えを理由に停電しやすくなることは通常ありません。切り替え工事も基本的に不要です。社内で不安が出やすい点なので、説明資料に先に書いておくと会議が早く終わります。
契約した事業者が事業から撤退したらどうなりますか
次の契約先を探すことになりますが、間が空いても最終保障供給という受け皿の仕組みがあります。ただし料金は割高な設計なので、長く置く前提のものではありません。契約時に、供給を続けられなくなった場合の通知期限が契約書に書かれているかを確認しておきます。
テナント入居で電気代が共益費に入っています。下げようがないですか
小売事業者を自社で選ぶことはできませんが、使用量を下げる方向は残ります。照明のLED化、空調の設定と運転時間の見直し、休日の待機電力の整理などです。あわせて、賃貸契約の更新時に電気費用の算定方法を確認する機会をつくると良いです。
削減できた分は、いつから請求に反映されますか
申込から実際の切り替えまで、検針日の関係でおおよそ1〜2か月かかるのが一般的です。稟議で「今期中に効果が出る」と書く場合は、切り替え月を先に事業者へ確認してから記載してください。