法人保険の見直し、総務が更新前に確かめる補償の重複と免責・中途解約
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この記事を読み終えると、会社が今どんな保険にいくら払っていて、どこが重なり、どこが抜けているかを確かめる順番が決まります。法人の保険は、入るときより「見直すとき」に手間がかかります。証券がバラバラ、担当代理店が複数、更新月もバラバラ、というのがよくある状態だからです。値段の比較から入ると、たいてい途中で止まります。まずは棚卸しから始めてください。
まず保険証券を全部集める。ここで半分終わります
見直しの第一歩は、比較でも相見積もりでもありません。今ある保険証券を全部集めることです。
集める先は、だいたい次のところに散らばっています。・総務の金庫やキャビネットの中・経理の支払記録(口座振替や保険料の勘定科目からたどる)・社長の個人的なつきあいで入った分(社長室や自宅にあることもあります)・リース会社や大家さん経由で加入した分(動産総合保険や借家人賠償など)
実務でいちばん多いのは、「経理の口座振替には出てくるのに、証券が見当たらない」というパターンです。この場合は代理店に連絡して証券のコピーをもらいます。
集めた証券は、一覧表にします。項目は、保険の種類・保険会社・代理店・補償の対象・保険金額・免責金額・保険料・更新月・自動更新かどうか。この表ができた時点で、見直しの作業はおおよそ半分終わったと考えていいです。表がないまま代理店と話すと、話が先方のペースになります。
補償が重なっている場所と、抜けている場所を探す
一覧表ができたら、重複と抜けを見ます。値段は後です。
重なりやすいのは、こういうところです。・火災保険に付いている賠償の特約と、別に入っている施設賠償責任保険・自動車保険の人身傷害と、別に入っている傷害保険・機械や什器の補償が、動産総合保険と火災保険の両方に入っている
抜けやすいのは、こういうところです。・借りているオフィスの原状回復にかかわる借家人賠償(大家さんへの賠償)・水濡れや漏水で階下に損害を与えたときの補償・従業員がけがをしたときの、労災の上乗せと会社への損害賠償請求への備え・パソコンや持ち出し機器の盗難、データの流出
重複は保険料の無駄になりますが、二重に受け取れるわけでもありません。抜けのほうが痛手は大きいので、先に抜けから見てください。見直しの目的は「安くすること」ではなく「払っている額に見合う形に整えること」です。
保険料より先に、免責金額と支払対象外を読む
見積書の比較で見落とされるのが、免責金額(自己負担額)と、支払対象外になる事由です。
免責金額とは、事故のときに会社が自分で負担する金額のことです。ここを大きくすると保険料は下がります。下がった分だけ、実際に事故が起きたときの持ち出しが増えます。少額の事故は結局自腹になる、という設計になっていないか確かめてください。
支払対象外の代表例は、地震・噴火・津波を原因とする損害です。火災保険に入っていても、地震が原因の火災は対象外というのが基本の考え方です。必要なら別の特約や共済で手当てすることになります。
もうひとつ、実務で効いてくるのが「新価か時価か」です。新価は同じものを買い直す金額、時価は使った年数分を差し引いた金額です。時価だと、古い設備は保険金だけでは買い替えられません。稟議で説明するときも、この差は伝わりやすい論点です。
代理店が複数いる問題と、社長の知人という壁
従業員十数人から百人規模の会社では、保険の代理店が二社も三社もついていることがよくあります。火災は付き合いのある地元代理店、自動車は別のところ、社長が知り合いから頼まれて入った分がもう一本。この状態だと、補償の重複に誰も気づけません。
見直しでは、窓口の一本化を検討します。事故のときに「どこに電話するか」が一つになるだけでも価値があります。ただし、ここが社内でいちばん揉めます。社長の知人が代理店をやっている場合、総務が「切りましょう」とは言いにくいものです。
進め方としては、代理店の是非を先に議題にしないことです。先に一覧表を見せて、重複と抜けを事実として並べます。そのうえで「事故のときの連絡先を一つにしたい」という運用の話として出すと、感情の話になりにくくなります。判断は経営に委ねる形にしておくのが無難です。総務が決めるべきは、契約の中身の整理までです。
やめるときに詰まる ─ 中途解約の返戻金と、付保義務
継続契約は、やめるときに詰まります。保険も同じです。
長期契約(数年分をまとめて払う契約)を途中でやめると、払った保険料が日割りで戻るとは限りません。短期率という計算方法が使われることがあり、残り期間の割に戻る額が少なくなる場合があります。解約前に、返戻金の見込み額を書面でもらってください。口頭の説明だけで進めると、稟議の後で数字が変わったときに説明できません。
もうひとつ注意したいのが、付保義務です。賃貸借契約書やリース契約書に、「借主(借受人)は火災保険に加入すること」と書かれていることがあります。加入先を大家さんやリース会社が指定している場合もあります。ここを確かめずに解約すると、契約違反になります。
切り替えるときは、必ず新しい契約の始まる日と、古い契約の終わる日をつなげてください。一日でも空くと、その日に事故が起きたときに何も出ません。
稟議は「値下げ」ではなく「抜けを埋める」で書く
保険の見直しの稟議は、書き方で通りやすさが変わります。
保険料が下がる場合は、前後の比較表を付ければ通ります。問題は、抜けを埋めるために保険料が上がる場合です。この場合、「万一に備えて」だけでは弱いです。
書き方としては、起きたときに会社がいくら払うことになるかを並べます。たとえば、階下への漏水で内装をやり直すと、どの程度の金額感になるか。従業員のけがで会社に損害賠償が来た場合、どういう費用が発生しうるか。金額は断定できませんので、「おおよそ」「〜程度」と幅で書き、根拠にした資料名も添えます。代理店に事故事例の資料をもらうと書きやすくなります。
添付するのは、現状の一覧表、見直し後の一覧表、差額、そして見直さなかった場合に残るリスク。この四点です。相見積もりを取る場合は、補償内容をそろえた条件で各社に依頼してください。条件がずれた見積もりを並べても、比較したことになりません。
更新月をそろえ、次の担当者に引き継げる形で残す
最後に、運用の話です。保険は一度整えても、放っておくと元に戻ります。人が替わるからです。
やっておくといいことは三つです。
- 更新月をできるだけそろえる。バラバラだと、年に何度も比較作業が発生します。契約の切り替え時に、満期日を合わせられないか代理店に相談してください。
- 一覧表を共有フォルダに置き、証券の保管場所も書いておく。金庫の中にあること自体が、次の担当者に伝わっていないことがあります。
- 事故が起きたときの連絡手順を一枚にまとめて、総務の壁か共有フォルダに置く。誰に、何を、いつまでに連絡するか。保険は事故から一定期間内の通知を求められるのが普通ですので、ここで遅れると面倒になります。
まずやることは、証券を全部集めて一覧表を作ることです。それができたら、更新月がいちばん近い契約から、重複と抜けを一つずつ確かめてください。全部を一度に見直そうとすると止まります。
買う前に確かめること
- 保険証券を全部集め、更新月と保険料を一覧表にしたか
- 賃貸借契約書とリース契約書の付保義務を確認したか
- 免責金額と、新価か時価かを証券で確かめたか
- 長期契約の中途解約時に戻る金額を書面でもらったか
- 新旧の契約に一日も空白が出ない日付になっているか
- 事故時の連絡先と手順を一枚にまとめて共有したか
候補になる分類
企業向け火災保険(事業用の財産補償)
目安:年間おおよそ数万円〜数十万円(面積・構造・補償額で変動)
自社ビルでも賃貸オフィスでも、建物・内装・什器備品の損害に備える基本の契約です。賃貸の場合は、大家さんへの賠償(借家人賠償)が付いているかが要点になります。新価か時価かで、事故後に買い替えられるかどうかが変わります。
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施設賠償責任保険・請負業者賠償責任保険
目安:年間おおよそ数万円〜十数万円(売上高・業種で変動)
来客が社内で転んだ、看板が落ちて通行人にあたった、工事や作業で他人の物を壊した、といった対人・対物の賠償に備える契約です。店舗や現場作業のある会社では優先度が高くなります。火災保険の特約と重複していないか確かめてください。
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業務災害総合保険(労災の上乗せ・使用者賠償)
目安:年間おおよそ十数万円〜(従業員数・業種で変動)
政府の労災保険では足りない部分と、従業員から会社へ損害賠償を求められた場合に備える契約です。従業員数が増え、現場作業や運転業務がある会社ほど検討の価値があります。加入していないことに事故の後で気づくのが、いちばん重いパターンです。
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サイバー保険・情報漏えい賠償の補償
目安:年間おおよそ数万円〜数十万円(売上高・取扱情報量で変動)
顧客情報を扱う会社、ネット経由で受発注する会社向けです。賠償だけでなく、原因調査やお詫び対応の費用が出るかどうかで内容が大きく変わります。既存の賠償保険の特約として付けられる場合もあるので、重複に注意してください。
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よくある質問
相見積もりは何社くらい取ればいいですか
二〜三社で足ります。それ以上は比較表を作る手間のほうが大きくなります。大事なのは社数より、補償内容と免責金額をそろえた同じ条件で依頼することです。条件がずれた見積もりを並べても判断できません。
保険料を下げたいのですが、どこから手をつけるべきですか
まず重複している補償を外すのが安全です。次に免責金額(自己負担額)を上げる方法がありますが、少額の事故が自腹になる点を経営に伝えてから決めてください。補償額そのものを削るのは、抜けを作りやすいので最後に検討します。
更新の案内を見落として、うっかり失効させないか不安です
一覧表に更新月を書き、二か月前と一か月前に社内カレンダーへ通知を入れておくのが確実です。自動更新の契約は逆に、内容を見直さないまま何年も同じになりがちです。自動更新かどうかも一覧表の項目に入れておいてください。
商工会議所や業界団体の制度は使えますか
団体扱いの制度は、同じ補償でも保険料が抑えられる場合があります。ただし加入資格や脱退時の扱いに条件が付くことがあります。会員をやめたときに契約がどうなるかを、加入前に確かめてください。