助成金・補助金の申請、着手前に総務が確かめる不支給リスクと成功報酬
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この記事を読むと、助成金・補助金に手を出すかどうかを、社内で説明できる形で判断できます。判断の中心は金額ではありません。「今の自社が受給資格を満たしているか」「着手のタイミングを間違えていないか」「入金までのお金を回せるか」の3点です。逆に言えば、この3点を確かめずに申請書を書き始めると、時間だけ消えます。実際に一番多い失敗は、審査で落ちることではなく、申請の前提を満たしていなかったことです。
助成金と補助金は別物として扱う
同じ「公的支援」でも、性格がかなり違います。ここを混ぜると社内説明が破綻します。
- 雇用関係の助成金(主に厚生労働省・都道府県労働局が窓口)は、要件を満たせば支給される性格のものが多いです。人を雇う、賃金を上げる、教育訓練をする、といった労務の行動に対して出ます。予算枠はありますが、コンテストではありません。
- 補助金(経済産業省系や自治体のもの)は、申請書の内容を審査して採択・不採択が決まる性格のものが多いです。設備投資やIT導入、販路開拓などが対象になります。書き方の勝負になる場面があり、採択率が公表されているものもあります。
総務が現実的に取りにいけるのは、まず前者です。日常の労務手続きの延長線上にあり、社内の誰が動くかもはっきりします。後者は事業計画を書く担当が別に必要で、総務が兼任で回すと途中で止まりがちです。
稟議では「これは審査で落ちる可能性があるものか、要件を満たせば出るものか」を最初に書き分けてください。ここを曖昧にすると、経営から「取れるんだろ?」と言われ、あとで説明に困ります。
申請前に落ちる会社の共通点は労務の足元
審査以前の段階で対象外になるケースが、実務では一番多いです。カタログにも募集要領の冒頭にも書いてありますが、読み飛ばされます。
- 労働保険料の未納・滞納があると、その時点で門前払いになる制度が多くあります。分割納付中の扱いも制度ごとに違います。
- 出勤簿が自己申告のメモだけ、タイムカードの打刻と残業代の計算が合っていない、といった状態は危険です。助成金の確認資料は賃金台帳・出勤簿・労働条件通知書のセットです。ここで未払い残業が見えると、助成金どころではない話になります。
- 就業規則が労働基準監督署に届け出されていない、あるいは実態と違う古い版のまま、という会社は珍しくありません。制度によっては規則の該当条文の提出を求められます。
- 過去に不正受給や重大な労働関係法令違反があると、一定期間申請できない扱いになります。
つまり、助成金の申請は労務の健康診断です。私が過去に一度止めた案件は、金額は魅力的でしたが、出勤簿を出した瞬間に別の問題が表に出る状態でした。まず足元を直し、翌年度に回しました。これは負けではなく、正しい順序です。
着手のタイミングを1日間違えると全額対象外になる
これが一番痛い失敗です。取り返しがつきません。
i多くの制度に「事前手続き」があります。雇用関係の助成金では計画届や訓練計画を先に提出し、受理された後に実施する、という順序が定められているものがあります。補助金では交付決定の前に発注・契約・支払いをしたものは対象外、という原則があります。
現場では、こういう形で崩れます。研修の日程を先に押さえてしまった。設備の見積を取ったつもりが発注書扱いになっていた。採用が先に決まり、入社日が届出前になった。いずれも「制度は使えたのに、順序で消えた」パターンです。
- 社内には「公的支援を使う可能性がある案件は、契約・発注の前に総務へ一報」というルールを一本入れてください。メール一行でよいので、記録が残る形にします。
- 見積、注文、契約、納品、検収、支払の日付を1枚の表にして残します。あとで求められるのは、この日付の並びです。
- 年度替わりの募集要領は変わります。前年の資料で動かないこと。募集要領は毎回、対象期間と事前手続きの箇所だけでも読み直します。
入金は思ったより遅い。稟議は「もらえない前提」で組む
公的支援は基本的に後払いです。先に自社で払い、あとで支給されます。ここを見落とすと、資金繰りの話になります。
- 支給申請の受付期間は、実施が終わった後に設定されているのが通常です。そこから審査があり、入金までさらに時間がかかります。制度によっては、支出から入金まで半年から1年程度かかることもあります。
- 年度をまたぐと、会計処理の話も出てきます。いつの収益に立てるか、消費税の扱いをどうするか。経理・顧問税理士に事前に一声かけておくと、後の手戻りが減ります。
- 補助金は採択されても交付額が減額されることがあります。実績報告の内容次第です。
稟議の書き方としては、支出は満額で申請し、支給見込みは「入れば戻る」という注記に留めるのが安全です。助成金が入る前提で予算を組むと、不支給や減額のときに事業そのものが止まります。私は稟議書に「支給されなかった場合もこの支出は妥当か」という一行を入れるようにしています。この一行が書けない案件は、そもそも助成金目当ての案件です。
代行に頼むかどうかと、成功報酬の見方
社会保険労務士や中小企業診断士、支援機関、民間のコンサルに頼む選択もあります。ここは値段の比較よりも、条件の確認です。
- 雇用関係助成金の申請代行は、社会保険労務士の業務です。誰がやるのかを確かめてください。
- 成功報酬型は、支給額の一定割合という形が多く見られます。着手金が別にかかる場合もあります。確かめる点は、報酬の計算の基礎(支給決定額か入金額か)、支払時期(決定時か入金後か)、不支給のときの扱い、複数年にわたる制度で2年目以降も報酬が発生するか、です。
- 「うちに任せれば通ります」という言い方をするところは避けます。要件を満たすかどうかは制度側が決めます。
- 自社で用意する書類の量も確かめます。代行に頼んでも、賃金台帳や出勤簿を出すのは自社です。ここが整っていないと、代行費用を払った上で総務が徹夜します。
- 契約書を交わし、社内の担当と窓口を1人に決めます。労働局からの照会は期限が短いことがあり、担当不在で流れる事故が起きます。
初回は代行に入ってもらい、手順を見て覚え、2回目以降を自社でやる形が現実的だと思います。
で、どうすればいいか(3週間でできる進め方)
順番だけ守れば、そう難しくありません。
- 1週目:足元の確認です。労働保険料の納付状況、就業規則の届出済み版、賃金台帳と出勤簿の直近数か月分、雇用契約書の様式。この4点を机の上に並べます。並べられない項目が、そのまま優先課題です。
- 2週目:情報源を絞ります。厚生労働省と都道府県労働局のサイト、自治体の産業振興課、商工会議所、顧問社労士。この5つで足ります。まとめサイトの古い情報は使わないでください。募集要領の原文にあたるのが結局早いです。
- 3週目:自社の来期予定と突き合わせます。採用、賃上げ、研修、設備更新、就業規則の改定。すでに予定していることに合う制度だけを候補にします。助成金のために事業をつくると、たいてい続きません。
- そのうえで、候補が1つに絞れたら、窓口に事前相談を入れます。電話がつながりにくい時期もあるので、余裕を見てください。相談したときの担当者名と日付、言われた内容はメモに残します。後で解釈が食い違ったときに効きます。
最後に一つ。取れなかった年があっても、労務の書類が整うのは会社の資産になります。そこは無駄になりません。
買う前に確かめること
- 労働保険料の納付に未納や滞納がないか確認したか
- 就業規則の届出済み版が手元にあり、実態と合っているか
- 賃金台帳と出勤簿が直近分まで整い、残業代の計算と一致しているか
- 計画届など事前手続きの期限と、発注・契約の予定日が逆になっていないか
- 支給されなかった場合でもこの支出を続ける判断か、稟議に明記したか
- 代行を頼む場合、不支給時の報酬と2年目以降の扱いを契約書で確かめたか
候補になる分類
雇用関係助成金(事前の計画届が必要なタイプ)
目安:申請自体は無料(自社の人件費と書類整備の手間)
採用、賃上げ、正社員化、教育訓練など、労務の予定がすでにある会社に向きます。要件を満たせば支給される性格のため、社内説明がしやすいのが利点です。ただし着手前の届出を落とすと全額対象外になります。
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自治体・国の補助金(審査で採択が決まる後払いタイプ)
目安:申請自体は無料(外部に依頼する場合は別途)
設備更新やIT導入、販路開拓などの投資予定がある会社に向きます。採択されない可能性があり、交付決定前の発注は対象外です。事業計画を書ける担当を社内に置けるかが分かれ目になります。
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社会保険労務士などへの申請代行(成功報酬型・着手金型)
目安:着手金数万円程度+支給額に対する一定割合が一般的
初めて申請する会社、総務が兼任で手が足りない会社に向きます。報酬の計算基礎、不支給時の扱い、2年目以降の発生条件を契約書で確かめてから頼んでください。
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労務書類の保管・整備用の事務用品(ファイル・保存箱)
目安:1箱あたり数百円〜2千円程度
賃金台帳や出勤簿は提出だけでなく保存も求められます。年度ごとにまとめておくと、照会が来たときの探す時間が大きく変わります。
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よくある質問
助成金は必ずもらえるものですか。
要件を満たせば支給される制度もありますが、予算の状況や制度改正で受付が終了することもあります。また審査で対象外と判断される場合もあります。「もらえない場合でもこの支出は妥当か」を先に確かめてから進めてください。
見積を取っただけなら、まだ発注ではないので大丈夫ですか。
制度によって判断が違います。見積依頼の段階で実質的に発注と見なされる書式もあります。危ないと思ったら、その制度の窓口に事前相談し、日付と担当者名をメモに残しておくのが安全です。
社内で「助成金は面倒だからやらない」と言われます。どう説明しますか。
金額だけで押さないほうがうまくいきます。労務書類の整備が結果として会社を守る、という筋で説明します。そのうえで、総務の作業時間の見込みと、外部に頼む場合の費用を数字で出せば、判断してもらいやすくなります。
複数の制度を同時に使えますか。
併給できないと定められている組み合わせがあります。同じ経費や同じ対象者に対する二重の支給は認められないのが原則です。候補が複数あるときは、窓口か社労士に併給の可否を先に確かめてください。