オフィスの選びかた

中小企業の総務が決裁する「契約」と「買いもの」を、実際に決裁した側の目線で選ぶための記録。

オフィスの防災備蓄、何をどれだけ買うか総務の判断基準

2026-08-31 防災備蓄BCP総務の実務オフィス備品稟議

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防災備蓄は「とりあえずセット品を人数分」で買うと、ほぼ確実に後悔します。理由は買う瞬間ではなく、置き場所と期限の入れ替えと処分で詰まるからです。この記事を読み終えると、自社が何をどれだけ買うべきか、その数量の根拠をどう稟議に書くか、そして5年後に誰がどう入れ替えるかまで決められる状態になります。カタログには出てこない継続費用の話も入れました。

まず決めるのは品目ではなく「何人分を何日分か」

買い物リストを作る前に、対象人数と日数を紙に書いて確定させてください。ここが曖昧なままだと、あとから何度も買い足すことになり、期限の管理が品目ごとにバラバラになります。これが一番よくある失敗です。

対象人数は「従業員数」ではありません。実務では次を足します。・正社員、契約社員、パート・アルバイト・常駐している委託先や派遣のスタッフ・平常時に社内にいる来客や取引先(おおよそのピーク人数)・帰宅できず居残る可能性が高い人の分の余裕(1〜2割程度)

日数は、東京都のように事業者へ従業員の一斉帰宅抑制と3日分程度の備蓄を求める条例がある地域もあります。自治体によって考え方が違うので、自社の所在地の条例やガイドラインを一度確認しておくと、稟議の根拠にそのまま使えます。

人数×日数が決まれば、必要量は掛け算で出ます。この「掛け算の式」を稟議書に載せるだけで、金額の妥当性の説明はほぼ終わります。逆に式がないと「なぜこの金額か」で必ず差し戻されます。

水・食料・トイレの三つは優先順位が違う

予算が限られるなら、優先順位をつけます。実感としては、水、トイレ、食料の順です。食料が最後なのは、1〜2日食べなくても健康な大人は持ちこたえられる一方、水とトイレは代替がきかないからです。

水は、飲用としておおむね1人1日3リットル程度が目安とされます。3日分なら1人9リットル前後です。50人なら450リットル前後で、重さは同じく450キロ程度になります。ここで初めて「床が抜けないか」「エレベーターで運べるか」という現実の話が出てきます。

トイレは最も見落とされます。断水や排水管の損傷で流せなくなると、既存の便器はすぐ使えなくなります。回数の目安は1人1日5回程度とされることが多く、3日分だと1人15回前後。人数を掛けると、想像よりかなりの箱数になります。備蓄で「足りなかった」と言われるのは、だいたいこれです。

食料は、加熱・調理がいらないものを中心にします。お湯が使える前提の商品は、停電時に使えません。アレルギー表示の確認と、常用薬を切らせない人への注意喚起も合わせて行ってください。

置き場所を決めてから発注する(届いてから困る人が多い)

見積もりを取る前に、置き場所を実際に見て、メジャーで測ってください。段ボール何箱分になるかを販売元に確認すれば、必要な棚のスペースはおおよそ計算できます。

置き場所で確認する点は次のとおりです。・水のパレットを置ける床面と、そこまでの搬入経路(幅・段差・エレベーター)・1か所集中か、フロア分散か。閉じ込められた側に何もない状態を避けるなら分散が有利です・施錠された部屋に入れると、鍵を持つ人が不在のとき取り出せません。鍵の所在は必ず複数人で共有します・高い棚の上に重い箱を置かない。地震のときに落ちてくる側になります

実務でよくあるのは、倉庫に入れたつもりが半年後には他の荷物で埋まり、備蓄が奥に押し込まれて取り出せなくなるパターンです。対策は単純で、キャスター付きの箱にまとめ、床にテープで区画を引き、そこには他の物を置かないと決めることです。掃除の委託先にも伝えておきます。

カタログに出ない継続費用は「入れ替え」と「廃棄」

備蓄の本当のコストは、初回購入額ではありません。数年ごとに買い直す費用と、古い分を処分する手間です。ここを稟議に書いていないと、次の担当者が必ず困ります。

  • 長期保存水や保存食は、5年程度で期限が来る商品が多いです。つまり購入額のおおむね5分の1が、毎年の実質コストになります
  • 期限切れが近い水は、清掃や手洗い用に回すなど、使い道を先に決めておきます。決めていないと、ただ捨てることになります
  • 社員に配って消費する方法は有効ですが、「期限が近いものを配るのか」という反応が出ます。配布時は期限日とおいしく食べられる目安を紙で添えると、問い合わせが激減します
  • 大量の食品を捨てる場合、事業所からの廃棄は事業系ごみの扱いになり、家庭ごみとして出せません。処分方法と費用を、購入時点で総務内で確認しておきます
  • 折りたたみヘルメットや救急用品にも、使用推奨期限や消費期限があります。水と食料だけ入れ替えて、こちらを忘れる会社は多いです

入れ替えの担当を1人にすると、その人が異動した瞬間に止まります。年1回、期限一覧を更新する作業を業務手順として文書に残してください。

稟議は「金額」ではなく「起きたときの責任」で通す

防災備蓄は売上を生みません。だから金額の話だけで持っていくと、後回しにされます。通しやすいのは、責任と実害の話に置き換えることです。

使える切り口は次のとおりです。・会社には従業員の安全に配慮する義務があります。帰宅困難になった社員を無備蓄の建物に留めるのは、その義務の観点で説明が難しいという整理・取引先やクライアントから、BCP(事業継続計画)の有無を確認される場面が増えています。備蓄は、その中で最も着手しやすい項目です・全社一斉ではなく、まず水とトイレだけ、次年度に食料と資機材、という分割購入案を同時に出す・「1人あたり年間おおよそ千円台から数千円程度」という、1人あたり年額に割った数字で見せる。総額より通りやすくなります

反対意見として出やすいのは「置き場所がない」です。これは事前に置き場所を決めておけば潰せます。もう一つは「近所のコンビニで買えばいい」ですが、災害時に周辺店舗の在庫が数時間で消える点を、過去の大規模災害の報道などで補足すれば十分に説明できます。

買ったあとにやること(ここまでやって初めて備蓄になる)

箱を置いた時点では、備蓄は機能しません。最低限、次の4つまで進めてください。

1. 期限一覧表を1枚作る。品目、数量、保管場所、期限日、次回入替年だけで十分です。共有フォルダとプリントの両方に置きます。2. 保管場所を全社に周知する。総務だけが知っている備蓄は、総務が出社していない日曜の地震では使えません。3. 開けてみる日を作る。年1回、防災の日や避難訓練に合わせて、簡易トイレを1セットだけ実際に組み立ててみてください。説明書を読んで初めてわかることが必ずあります。4. 安否確認の手段と組み合わせる。備蓄があっても、誰が社内にいるかわからないと配れません。

手順としては、まず対象人数と日数を確定し、置き場所を測り、水とトイレを先に発注、期限一覧表を作って年1回の点検を業務手順に載せる。この順番で進めれば、大きく外すことはありません。予算が足りない年は、食料の日数を落として水とトイレを確保する。この判断だけ覚えておけば大丈夫です。

買う前に確かめること

  • 対象人数に来客・派遣・アルバイトを含めて数えたか確認する
  • 水のケース総重量と搬入経路(幅・段差・エレベーター)を実測したか
  • 簡易トイレを1人1日5回程度で計算し、回数を確保しているか
  • 期限一覧表を作り、年1回の点検を業務手順として文書に残したか
  • 期限切れ食品の処分方法と事業系ごみの費用を事前に確認したか
  • 保管場所の鍵の所在を複数人で共有し、全社に周知しているか

候補になる分類

5年程度の長期保存が可能な備蓄用飲料水(箱・ケース単位)

目安:1人3日分でおおよそ500〜1,500円程度

最初に確保すべき品目です。人数×3リットル×日数で必要量が出るため、稟議の根拠を書きやすいのも利点です。搬入経路とパレットの置き場所を先に確認してから、箱数を決めてください。

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加熱不要で食べられる長期保存食(アルファ米・保存用ビスケット類)

目安:1人3日分でおおよそ1,500〜4,000円程度

停電を前提にすると、お湯が要らないタイプが現実的です。アレルギー表示の確認と、宗教・体質に配慮した選択肢を少量混ぜておくと、いざというとき配りやすくなります。

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簡易トイレ・凝固剤セット(回数単位で買えるもの)

目安:100回分でおおよそ3,000〜10,000円程度

最も不足しがちな品目です。1人1日5回程度を目安に、人数と日数で回数を計算してください。便座に被せる袋型と凝固剤の組み合わせが、事務所では扱いやすい傾向があります。

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キャスター付き保管ボックス・防災用品収納ラック

目安:1台あたり3,000〜15,000円程度

備蓄が奥に埋もれて取り出せなくなるのを防ぐための投資です。フロア分散で置く場合、移動できる箱にまとめておくと点検と入れ替えの手間が大きく減ります。

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よくある質問

備蓄は本社に集中させるのと、フロアごとに分散させるのはどちらがよいですか。

取り出せなくなるリスクを考えると、分散のほうが安全側です。地震で階段や扉が使えなくなると、別の階の備蓄は事実上ないものと同じになります。ただし管理の手間は増えるので、フロアごとに担当者を決め、期限一覧表を一本化してください。

期限が近づいた保存食を社員に配ってもよいのでしょうか。

多くの会社で行われている方法で、廃棄費用を抑えられます。ただし「期限切れを押し付けられた」と受け取られないよう、期限日と配布理由を書いた紙を添えてください。持ち帰り後の自宅備蓄になれば、会社にとっても損はありません。

予算が数万円しかありません。何から買うべきですか。

水と簡易トイレを優先してください。食料は日数を減らしても致命的にはなりにくい一方、水とトイレは代わりがありません。次年度に食料と資機材を足す前提で、分割購入の計画を稟議に添えると承認されやすくなります。

備蓄品はどのくらいの頻度で見直せばよいですか。

年1回で十分です。防災の日や避難訓練の時期に合わせ、期限一覧表を更新し、翌年に期限が来る品目を洗い出します。あわせて、その年の従業員数の増減を人数計算に反映させてください。

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