オフィス移転を考え始めたら最初に読む、解約予告と原状回復の落とし穴
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オフィス移転の相談は、たいてい「そろそろ手狭で」から始まります。ところが実際に総務が詰まるのは、新しい物件ではなく、今借りている部屋のやめ方です。この記事を読み終えると、物件を探す前にやるべきことの順番と、稟議書に書いておくべき費用の項目がわかります。物件情報を集めるのは、その後で十分間に合います。
移転の検討は、新しい物件より先に今の賃貸借契約書から
移転の話が出ると、まず不動産のサイトを見に行きたくなります。順番が逆です。最初に開くのは、今のオフィスの賃貸借契約書と、その後に交わした覚書です。
見るのは次の項目です。
- 解約予告の期間(何か月前までに書面で通知するか)
- 契約の種類(普通借家か定期借家か。定期借家だと期間中の中途解約ができない、または違約金が発生する条項がある場合があります)
- 敷金・保証金の返還条件と「償却」の有無(一部が返ってこない取り決め)
- 原状回復の範囲と、工事業者を貸主側が指定するかどうか
- 更新料や、フリーレント(家賃無料期間)を受けた場合の返還条項
この5つを読むだけで、移転できる最短の時期と、返ってこないお金の見当がつきます。逆に、ここを読まずに物件を押さえてしまうと、退去日と入居日がかみ合わず、後で全部が費用に跳ね返ります。
契約書が見つからない会社も、実はよくあります。前任者の引き出しや、賃料の口座振替の記録から貸主・管理会社をたどり、写しをもらうところから始めてください。
解約予告は思っているより早い。通知を出す日を先にカレンダーに置く
事務所の賃貸借では、解約予告を6か月前と定める契約が珍しくありません。3か月前のものもありますが、面積が大きくなるほど長めになる傾向があります。つまり、来春に移りたいなら、もう通知の期限が近い可能性があります。
ここで総務が一番やってはいけないのは、社内の合意が固まる前に通知を出すことです。通知は原則として取り消せません。一方で、通知が遅れれば、その分だけ今の部屋の家賃を払い続けることになります。
実務的には、こう組みます。
- 先に「新オフィスの候補が決まっていなくても、この日までに通知すれば移転できる」という日を出す
- その日から逆算して、役員会や稟議の日程を置く
- 通知は書面で、控えを残す。管理会社の担当者に口頭で伝えただけ、というのは後で揉めます
通知日を決めると、社内の議論が急に前に進みます。「いつまでに決めないと1年延びる」という形にすると、決裁が動きやすいからです。期限のない移転計画は、だいたい止まります。
原状回復は見積が出てから揉める。指定業者とB工事という壁
退去費用でもっとも読みにくいのが原状回復です。床・壁・天井を借りたときの状態に戻す工事のことですが、事務所の場合、住宅と違って借主の負担範囲が広く書かれていることが多いです。
つまずく点は3つあります。
第一に、業者を貸主が指定する条項です。相見積もりが取れないため、金額の妥当性を確かめにくくなります。第二に、いわゆるB工事です。借主が費用を出すのに、発注と業者選定は貸主側という工事区分のことで、空調やスプリンクラー、分電盤などが対象になりがちです。第三に、入居時に自社が入れた造作です。会議室の間仕切りや、増設した電源、看板は、原則として撤去して元に戻す扱いになります。
打てる手はあります。指定業者でも、見積の内訳(数量・単価・面積)を出してもらい、実際の面積と照らすことはできます。第三者の原状回復のチェックを依頼する方法もあります。減額が約束されるわけではありませんが、根拠のない一式計上を指摘できるだけでも意味があります。
見積依頼は、退去の直前ではなく、通知の前後に動き出してください。金額が読めない状態では稟議が書けません。
家賃を二重に払う期間は必ず出る。資金の山を先に稟議に書く
移転は、旧オフィスと新オフィスの費用が重なります。工事と引越しの都合上、この重なりをゼロにはできません。ここを稟議書に書き忘れると、後から「聞いていない」と言われます。
重なるのは主にこの部分です。
- 旧オフィスの家賃(退去日まで)と、新オフィスの家賃または内装工事期間の賃料
- 新オフィスの敷金・保証金(賃料の数か月分に設定されることが多い)
- 内装・LAN配線・電話工事・什器の費用
- 旧オフィスの原状回復費(敷金から差し引かれる場合と、別途請求の場合があります)
- 引越し費用、廃棄費用
敷金は返ってくるお金ですが、返るのは退去の後、しかも原状回復費を差し引いた残りです。新オフィスの敷金を先に払い、旧オフィスの敷金は数か月後に一部戻る、という順番になります。資金繰り上は、この時期に大きな谷ができます。
稟議では、総額だけでなく月別の支出予定表を添えると通りやすくなります。経理や社長が知りたいのは、いくらかかるかより、いつ現金が出るかです。フリーレントを交渉できた場合も、期間中に解約すると返還が求められる条項があるか、必ず確認してください。
捨てる物と持っていく物。家具と書類は当日には消えない
見落としが多いのが処分です。オフィスの机・椅子・書庫は、家庭ごみとして出せません。事業者が出す廃棄物として、許可のある業者に有償で引き取ってもらいます。台数が多いと、引越し費用と同じくらいかかることもあります。
書類はさらに手間です。保存義務のある帳簿や労務関係の書類は、年限を確認してから残す・捨てるを分けます。判断が要るので、総務以外に任せられません。移転の1〜2か月前から、週に半日ずつでも棚卸しの時間を取ってください。当日にまとめてやろうとすると、必ず「とりあえず全部運ぶ」になり、新オフィスが狭くなります。
実務で効くのは、この3つです。
- 机の中は各自に片付けさせる。期限と、捨てる箱の置き場所を決めて社内に告知する
- 機密書類は、鍵付きの回収箱で預けて溶解処理してもらうサービスを使うと、社内で細断する手間が減ります。処理証明が出るものを選ぶと監査でも説明しやすいです
- 複合機・電話機・サーバー機器などリース物件は、移設の可否と費用をリース会社に先に確認する。勝手に動かせない契約もあります
当日より怖いのは、通信と住所変更の後始末
移転当日に電話とネットがつながらない、というのは今でも起きます。回線の工事は申し込みから開通まで待たされることがあり、ビルの設備によって使える回線が限られる場合もあります。物件を決める前に、希望の回線が引けるかを管理会社に確認してください。ここは内見のときに聞いておく項目です。
電話番号を引き継げるかは、収容している電話局の区域によって決まります。引き継げない場合、名刺・封筒・ウェブサイト・請求書のひな形まで作り直しになります。印刷物の発注は番号が確定してからです。
移転後の届出も総務の仕事です。おおむね次のようなものが出てきます。
- 法務局への本店移動の登記(登録免許税がかかります。移動先の管轄が変わるかで金額が変わります)
- 税務署・都道府県・市町村への異動届
- 年金事務所、労働基準監督署、ハローワークへの所在地変更
- 銀行、クレジットカード、リース会社、保険、取引先への通知
- 郵便物の転送届
数が多いので、一覧表を作って担当と期限を入れてください。登記は司法書士に、社会保険関係は顧問の社会保険労務士に投げられます。全部を自分でやる必要はありません。
で、どうすればいいか。動く順番はこれです
迷ったら、この順で進めてください。物件を見るのは4番目です。
1. 今の賃貸借契約書と覚書を集め、解約予告期間・契約の種類・敷金の償却・原状回復の範囲・指定業者の有無を書き出す2. 「この日までに通知すれば移転できる」という期限を出し、社内の決裁日程を逆算する3. 原状回復の概算を取る。指定業者でも内訳を出してもらう。同時に、什器の処分と書類の棚卸しの見当をつける4. 必要な面積・立地・回線の条件を決めて、借主側に立つ仲介会社に相談する。同時に複数社に当たると比較ができます5. 月別の支出予定表を作り、二重家賃・敷金・工事・処分費まで入れた稟議を書く6. 決裁が出てから、書面で解約通知を出す
移転は総務の仕事の中でも、やり直しが効かない部類です。だからこそ、判断を早める必要はありません。期限だけを先に確定させて、そこまでに材料をそろえる。これで大きな失敗はかなり減ります。
買う前に確かめること
- 賃貸借契約書と覚書を全部そろえ、解約予告期間を書き出したか
- 敷金の償却条項とフリーレントの返還条項を読んだか
- 原状回復の範囲と、業者を貸主が指定するかを確認したか
- 二重家賃・敷金・工事・処分費を入れた月別の支出予定表を作ったか
- 希望の通信回線がそのビルで使えるか、内見時に確認したか
- リース中の複合機や電話機の移設可否と費用をリース会社に聞いたか
候補になる分類
借主側に立つオフィス仲介会社(テナントレップ型)
目安:仲介手数料は賃料の1か月分程度が一般的
貸主から手数料を受け取る仲介と、借主の立場で条件交渉を代行する仲介があります。面積や賃料の相場感がない会社ほど、複数社に当たって比較したほうが判断材料が増えます。
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原状回復の見積チェック・立会いを行う第三者サービス
目安:固定報酬型と成功報酬型があり、条件により変動
貸主の指定業者で相見積もりが取れない場合に、内訳の妥当性を確認してもらう使い方です。減額が保証されるものではないので、成功報酬の割合と、報酬の算定基準を契約前に確かめてください。
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オフィス移転を一括で請け負う業者(引越し・内装・配線・什器)
目安:規模と工事範囲で大きく変動
担当者が総務1人しかいない会社では、窓口が1つにまとまる価値が大きいです。ただし内装や配線を丸投げすると単価が見えにくくなるため、見積は工程ごとの内訳で出してもらいましょう。
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機密書類の回収・溶解処理サービス
目安:箱1つあたり数千円程度から
移転時にまとまって出る不要書類を、社内で細断せずに処理できます。鍵付き箱で回収し、処理証明が発行されるものを選ぶと、社内説明や監査対応が楽になります。
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よくある質問
解約通知は、新しいオフィスが決まる前に出してもよいですか
原則として出さないほうが安全です。通知は取り消せないことが多く、次が決まらないと行き先を失います。ただし通知が遅れると移転時期が半年単位でずれるため、「通知期限の日」だけを先に確定させ、それまでに決裁と物件のめどを付ける進め方をおすすめします。
原状回復費は敷金から引かれるのですか、別に請求されるのですか
契約によって両方あります。敷金から差し引く取り決めでも、費用が敷金を超えれば追加請求になります。稟議では「敷金は全額戻らない前提」で書いておくと、後で説明が楽です。
移転の準備はどれくらい前から始めればよいですか
解約予告が6か月前の契約なら、通知の前に契約書の確認と概算取りが要るため、実質的にはさらに前から動くことになります。回線工事や内装工事の待ち時間も読めないため、時期を決め打ちせず、期限から逆算した工程表を先に作るほうが確実です。