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退職金制度をつくる前に ─ 総務が確かめる掛金の下げにくさとやめ方

2026-09-25 退職金中退共企業型DC就業規則総務

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退職金制度は、始めるかどうかより「始めたあと下げられるか」で判断が変わります。この記事を読むと、自社が中退共・企業型DC・社内積立のどれを検討すべきか、決める前に社内で確定させておく項目、そして数年後に資金繰りが苦しくなったときに何ができて何ができないかがわかります。求人票に「退職金あり」と書きたい、という動機で走り出す前に、いったん止まって確認する順番の話です。

退職金は福利厚生ではなく、後払いの賃金として扱われます

最初に押さえたいのは、退職金が「余裕があるときに払うお礼」ではないという点です。就業規則や退職金規程に支給の条件と計算方法を書いた時点で、それは労働条件になります。後払いの賃金に近い扱いです。

ここが効いてくるのは、業績が落ちたときです。労働条件を従業員に不利な方向へ変えることは、原則としてできません。個別に同意をとるか、変更に合理性があると認められる必要があります。「今年は苦しいので退職金は半分で」という運用は通りません。

よくあるのは、求人で他社に見劣りするという理由から制度を急いで作り、規程の中身を詰めないまま走り出すケースです。ここで詰まります。確かめるのは次の点です。

  • 制度を入れたあと、10年後も同じ水準の掛金を払い続けられるか
  • 掛金を下げたいとき、どういう手続きが必要な仕組みなのか
  • 規程に書く支給額は「確定額」なのか「積み立てた分だけ」なのか

三つ目は特に重要です。金額を先に約束する形(確定給付に近い形)にすると、運用がうまくいかなくても会社が差額を埋めることになります。外部に積み立てた金額をそのまま渡す形なら、その負担は生じません。求人票の見栄えのために前者を選ぶと、負債だけが残ります。

選択肢は大きく三つ ─ 外部積立・企業型DC・自社積立

中小企業が現実的に検討するのは、おおむね次の三つです。

  • 中小企業退職金共済(中退共)などの外部積立。国の機関や商工会議所などの共済に毎月掛金を払い、退職時は従業員本人の口座へ直接支払われます。掛金は全額が会社の損金(経費)になります。事務は比較的軽い方です。
  • 企業型確定拠出年金(企業型DC)。会社が拠出した掛金を、従業員本人が自分で運用します。給与の一部を掛金に振り替える「選択制」という設計もあります。運用結果は本人の責任で、元本が保証される商品ばかりではありません。
  • 自社での積立や、保険商品を使った準備。生命保険を退職金の原資に充てる方法もありますが、保険料の全額が経費になるとは限らず、解約の時期によっては返ってくる額が払込額を下回ります。

どれが優れているという話ではなく、「会社が抱えるリスク」と「事務の重さ」の置きどころが違うだけです。外部積立は会社の手離れが良い反面、いったん払った掛金は会社に戻りません。企業型DCは制度としての自由度がある反面、運営管理機関への手数料が毎月かかり、加入者への継続的な説明(投資教育)が努力義務として求められます。自社積立は自由ですが、資金が手元にある分だけ使ってしまいやすく、退職が重なった月に払えなくなります。

掛金は上げるより下げるほうが難しい、という前提で決める

制度選びで一番見落とされるのが、掛金の減額手続きです。

外部積立の共済では、掛金の増額は会社の判断で進められても、減額には従業員本人の同意が必要とされるのが一般的です。同意が得られない場合は、経営が著しく悪化しているといった事情について行政の認定を求める流れになります。制度の詳細は改正されることがあるため、申込前に運営機関の最新の案内で必ず確認してください。

つまり、月額を高く設定してしまうと、あとから戻せません。ここで詰まるのは、創業メンバーや管理職だけを見て「これくらいは」と金額を決めてしまった会社です。人数が倍になった数年後、総額が資金繰りを圧迫します。

現実的な進め方は、低めの金額で始めて、勤続年数や役職に応じて上げていく設計です。全員一律で始めるのか、等級ごとに差をつけるのかも、最初に決めておくべき点です。後から差をつけると、既存の従業員にとって不利益な変更になりかねません。

もう一点。外部積立では、掛金は従業員本人に支払われる建て付けです。懲戒解雇のような事情があっても、会社の判断だけで減らしたり会社が受け取ったりはできない仕組みになっています。「問題を起こした人には払わない」という運用を前提にしているなら、制度の性質とかみ合っていません。

短期離職と入社前の期間 ─ カタログに出てこない目減り

パンフレットの試算表は、長く勤めた人の数字で書かれています。実務で効いてくるのは、短く辞めた人の扱いです。

外部積立の共済では、納付した月数が一定に満たないと支給がゼロになったり、払い込んだ額を下回ったりする仕組みがあります。目減りした分が会社に返るわけではありません。離職が多い職種を抱えている会社では、掛金の一部が事実上消えていく形になります。試用期間が終わってから加入させるのか、入社と同時なのか。ここは制度上の制約も踏まえて決める必要があります。

企業型DCの場合は、退職者が出るたびに移換(次の勤務先の制度や個人型へ資産を移す手続き)の案内が必要です。本人が手続きをしないまま放置すると、自動的に国の機関へ移され、運用されないまま手数料だけが引かれる状態になることがあります。退職時の説明を誰がやるのか、退職者への案内書式を用意しているか。総務の仕事が一つ増える、という認識は持っておいたほうがよいです。

そして、既存社員の入社前の期間をどう扱うかも決め事です。制度開始前の勤続を通算する設計にすると、その分の原資をどこかから用意することになります。通算しないなら、「自分は10年いるのに新入社員と同じ扱いか」という反発が必ず出ます。説明の言葉を先に用意しておくほうが、あとが楽です。

選択制にするときは、社会保険料が下がることの裏側を説明する

企業型DCの選択制、つまり給与の一部を掛金に振り替える方式は、提案の場でよく勧められます。掛金にした分は給与とみなされないため、本人の所得税・住民税と社会保険料、会社側の社会保険料負担が軽くなる、という説明です。

計算上そうなる場合はあります。ただし、同じページに書かれるべき話があります。社会保険料の計算のもとになる金額が下がるということは、将来受け取る老齢厚生年金や、病気で休んだときの傷病手当金、産休・育休中の給付、失業給付なども、それに連動して下がる方向に働きます。

この説明を省いたまま導入すると、数年後に休職者が出たときに「聞いていない」となります。導入時の説明会では、次の点を文書で配るのが無難です。

  • 掛金にした分は原則として60歳まで引き出せないこと
  • 運用商品によっては元本を下回る可能性があること
  • 社会保険の給付にも影響しうること、加入するかは本人が選べること

「入らない自由」を明示することも大切です。会社が一律に加入を求める形にすると、給与の不利益変更と受け取られかねません。制度の細かい要件や上限額は法改正で動きます。導入時点の資料をそのまま使い続けず、社労士や運営管理機関に最新の内容を確認してください。

稟議を通す順番 ─ 原資・規程・説明の三点セットで出す

社長に「退職金を入れたい」とだけ持っていくと、たいてい保留になります。判断材料が足りないからです。稟議に添えるのは次の三点です。

一つ目、原資の見通し。現在の人数で年間いくら、5年後に人数が1.5倍になったらいくら、という二本立ての試算です。1人あたりの月額掛金 × 対象人数 × 12か月で出せます。金額そのものより、「増えても払えるか」を示すことが重要です。

二つ目、規程の骨子。対象者の範囲(パート・有期を含めるか)、支給の要件となる勤続年数、自己都合と会社都合で差をつけるか、懲戒解雇の場合の扱い。パート・有期を外す場合は、待遇差に説明がつくかを社労士に確認してください。同一労働同一賃金の観点から問われる部分です。

三つ目、説明の計画。いつ誰が従業員に説明し、どの書式で同意や意思確認をとるか。就業規則の変更届を労働基準監督署に出すところまでが導入です。

判断に迷ったら、まず低めの掛金で外部積立から始め、規程は「積み立てた額を支給する」形にしておくのが、後戻りしやすい選択です。手厚くするのはいつでもできますが、薄くするのはほぼできません。まずは自社の就業規則に退職金の条文があるかを確認するところから始めてください。条文だけあって制度がない、という状態が一番危険です。

買う前に確かめること

  • 就業規則に退職金の条文がすでにあるか、制度の実体と合っているか確認する
  • 現在の人数と5年後の想定人数で、年間の掛金総額を二通り試算する
  • 掛金を減額したいとき、どんな手続きが必要な制度かを申込前に確認する
  • パート・有期社員を対象に含めるか、除く場合の説明がつくかを社労士に相談する
  • 勤続年数が短い退職者が出た場合の支給額と、会社への戻りの有無を確認する
  • 説明会の資料と同意書の書式を用意し、誰がいつ説明するかを決めておく

候補になる分類

中小企業向けの退職金共済(外部積立型)

目安:1人あたり月5千円〜3万円程度(設定額による)

毎月の掛金を外部に積み立て、退職時は従業員本人へ直接支払われる仕組みです。事務負担が軽く、掛金は全額が経費になるため、初めて退職金制度を持つ会社が検討しやすい形です。掛金の減額には手続きが要る点と、短期離職では目減りする点を理解した上で選んでください。

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企業型確定拠出年金(選択制を含む)

目安:初期費用のほか1人あたり月数百円程度の管理手数料

運用を従業員本人に委ねるため、会社が将来の支給額を約束しなくてよい形です。給与振替の選択制にすると税・社会保険料の負担が変わりますが、将来の年金や傷病手当金への影響も同時に説明する必要があります。運営管理機関への継続手数料と、加入者への説明を誰が担うかを先に決めてください。

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退職金規程の作成・就業規則改定を含む社労士サポート

目安:規程作成のスポット対応で数万円〜20万円程度が目安

制度そのものより、規程の書き方で数年後の負担が決まります。対象者の範囲、勤続要件、懲戒時の扱い、パート・有期の扱いを整理してもらう価値があります。顧問契約の範囲に入るのか、別料金のスポット作業になるのかを見積もり前に確認してください。

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よくある質問

退職金制度がないと採用で不利でしょうか。

求人での見え方に差が出ることはありますが、金額の小さい制度を無理に作るより、月給や賞与を上げるほうが応募者に伝わる場合もあります。判断の前に、自社が競合する求人がどう書いているかを実際に確認してください。制度を入れるなら、規程まで整えて「退職金あり」と書ける状態にすることが前提です。

いったん始めた退職金制度を、廃止することはできますか。

労働条件の不利益な変更にあたるため、原則として簡単ではありません。従業員一人ひとりの同意を得るか、変更に高い合理性が求められます。外部積立や企業型DCの場合は、すでに積み立てた資産の扱いについて制度上の手続きも別途必要です。始める前に、やめるときの手順を運営機関と社労士の両方に確認しておくことをおすすめします。

社長や役員も同じ制度に入れられますか。

制度によって加入できる範囲が異なり、役員は対象外とされる仕組みもあります。役員の退職慰労金は、株主総会の決議や規程が別途必要になる領域です。従業員向けの制度と役員向けの手当ては、分けて設計するのが一般的です。具体的な可否は税理士と運営機関に確認してください。

掛金の負担を軽くする公的な助成はありますか。

新しく制度に加入する事業主や、掛金を増額する場合に、一定期間の助成が用意されている制度があります。ただし対象条件や助成額は見直されることがあります。申込前に、必ず運営機関の最新の案内で条件と期間を確認してください。

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