オフィスの選びかた

中小企業の総務が決裁する「契約」と「買いもの」を、実際に決裁した側の目線で選ぶための記録。

社労士との顧問契約、総務が結ぶ前に決める業務範囲と解約時の引き継ぎ

2026-09-11 社労士顧問契約労務手続き解約条件稟議

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この記事を読み終えると、社労士事務所に見積もりを頼むときに「どこまでを月額に含めるか」を自分の言葉で指定できるようになります。顧問契約でもめる原因は、料金の高さより業務範囲の曖昧さです。そして継続契約は、入るときより解約するときに詰まります。従業員10〜100人規模の会社で実際に起きやすい順に書きます。

顧問契約でもめるのは料金ではなく「範囲」

社労士(社会保険労務士=労働・社会保険の手続きと労務相談の国家資格者)との顧問契約は、たいてい「月額◯万円、従業員◯人まで」という形で提示されます。ここだけ見て比べると、安いところが良く見えます。

ですが実際に総務が困るのは、月額に何が入っていないかです。よくある「別料金」はこのあたりです。

  • 算定基礎届(毎年7月の社会保険料の見直し手続き)
  • 労働保険の年度更新(毎年6〜7月の保険料申告)
  • 賞与支払届
  • 離職票の作成、雇用保険の資格喪失
  • 就業規則の作成・改定
  • 助成金の申請
  • 労働基準監督署の調査対応

これらを全部別料金にする事務所もあれば、算定と年度更新までは月額に含む事務所もあります。含まないほうが月額は安く見えます。年間で払う総額で比べないと判断を誤ります。

見積もり依頼のとき、こちらから「入退社が年間おおよそ何人」「賞与は年何回」「算定と年度更新を含めた年額を出してほしい」と条件を書いて渡してください。条件をそろえた見積もりでないと、比較になりません。

料金表に出てこない費用と、人数が増えたときの自動改定

顧問料は「従業員数のレンジ(区分)」で決まっているのが一般的です。ここで確認すべきは、レンジを超えたときにどうなるかです。

多くの契約書には「従業員数が増加した場合は協議のうえ改定する」と書かれています。実務では、増員の翌月から自動的に上の区分の金額になる運用が普通です。採用が続く会社だと、想定より早く上がります。稟議のときは、今の人数ではなく来期の採用計画の人数で年額を出しておくと、追加稟議を出さずに済みます。

もうひとつ見落とされるのが、パート・アルバイトの数え方です。社会保険に入っていない短時間勤務者も人数に含めるのか、含めないのか。ここが曖昧だと、あとで「うちは総人数で計算しています」と言われます。契約書か見積書に、数え方を一文で書いてもらってください。

助成金は成功報酬型(受給額の一定割合)が一般的です。顧問料とは別枠です。「顧問だから助成金も無料で見てもらえる」とは思わないほうが安全です。逆に、顧問契約を結んでいると成功報酬の率を下げる事務所もあります。そこも聞いておく価値があります。

窓口は誰か、実務は誰がやるか

面談に来るのは所長でも、日々の手続きを処理するのは補助者(無資格の事務スタッフ)であることがほとんどです。これ自体は問題ありません。事務所として品質管理ができていれば実務は回ります。

確かめるべきは次の三つです。

  • 普段の連絡先は誰か。メールか、チャットか、電話か。
  • 返答の目安時間。繁忙期(6〜7月の年度更新・算定、年末調整の時期)はどれくらい遅くなるか。
  • 担当者が変わるときに引き継ぎをどうするか。

実務でいちばん困るのは、繁忙期に返事が来ないことです。入社した人の健康保険証(現在は資格確認書やマイナ保険証の登録状況)が届かない、離職票が出ないという事態は、本人から総務に直接クレームが来ます。社労士に文句を言われるのではなく、総務が矢面に立ちます。

ですから「返答は原則◯営業日以内」を努力目標でよいので確認し、議事録かメールに残してください。契約書に書けなくても、記録があると後で話ができます。

もうひとつ。社長の知人の社労士に依頼している会社は多いです。この場合、質が合わなくても総務からは切り出しにくい。契約前に「年に一度、業務範囲と料金を見直す」と決めておくと、見直しの場を作りやすくなります。

電子申請のIDとマイナンバー、預けるものを一覧にする

手続きを委任すると、会社の情報がかなりの量、事務所側に移ります。ここを整理しないまま始めると、解約時に回収できません。

預けることになる主なものです。

  • 電子申請の権限(社労士が代理人として申請する形が一般的)
  • 従業員のマイナンバー(個人番号)
  • 扶養家族を含む個人情報、給与額
  • 就業規則、賃金規程、雇用契約書のひな形
  • 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳

マイナンバーを外部に渡す場合、会社側には委託先を監督する義務があります。形式的でよいので、事務所の情報の取り扱い方(保管場所、アクセスできる人、廃棄方法)を書面かメールで一度もらってください。監督官庁の調査というより、社内で「なぜ外に出すのか」と聞かれたときに答えられる材料になります。

また、どのファイルをどのクラウドで共有するかも決めておきます。事務所指定のシステムを使う場合、解約後にそこへログインできなくなります。過去の申請控えが全部そこにあると、あとで取り出せません。控えは会社側のフォルダにも同じものを置く運用にしておくと安全です。

やめるときに詰まるのは、書類の返還と手続きの空白期間

顧問契約の解約でつまずく点は、だいたい決まっています。

第一に解約予告です。「◯か月前までに書面で」と定められていることが多く、自動更新条項が付いています。更新月を社内カレンダーに入れておかないと、一年延びます。

第二に、預けた原本の返還です。労働者名簿や雇用契約書の原本を事務所に置いていると、返してもらう調整が要ります。「解約時に、預託資料は原本・データとも返還または消去し、その旨を書面で通知する」と契約書に入っているか確認してください。入っていなければ、覚書を一枚交わすだけで足ります。

第三に、就業規則のデータ形式です。PDFしか渡さない事務所があります。次の社労士や自社で改定するとき、Word等の編集できる形式がないと作り直しになります。「成果物は編集可能な形式で納品」と最初に決めておくのが確実です。

第四に、切り替えの時期です。事務代理の解除と新しい事務所の登録、電子申請の権限移行には日数がかかります。入退社が集中する3〜4月や、算定・年度更新の6〜7月に切り替えると、手続きが宙に浮きます。切り替えは繁忙期を外し、旧事務所に「引き継ぎ期限までの未処理案件一覧」を出してもらってください。この一覧があるかないかで、移行の手間がまったく違います。

稟議の通し方と、契約前にやる三つの作業

社労士費用は「よくわからないが必要そうな固定費」に見られがちです。稟議を通すには、数字にするのがいちばん早いです。

作業1。直近一年の手続き件数を数えます。入社、退社、扶養の異動、住所変更、産休育休、算定、年度更新、賞与届。件数が出ると、外注か内製かの議論が具体的になります。

作業2。その手続きに今、社内で何時間かかっているかを概算します。担当者の時給換算で年額を出すと、比較の土俵に乗ります。手続き自体より、調べる時間と役所に電話する時間が長いはずです。

作業3。二〜三事務所から同じ条件で見積もりを取ります。金額だけでなく「月額に含むもの/含まないもの」の表を作ります。この表があると、決裁者は判断できます。

最後に、社労士に頼むべきかの線引きです。定型の手続きだけなら、労務手続きのクラウドサービスで自社処理できる部分もあります。一方、就業規則の改定、労使協定、退職や休職のトラブル、労基署の調査対応は、判断が要る領域です。ここに専門家がいるかどうかが、いざというときの差になります。

進め方としては、まず作業1〜3を今月中に終える。そのうえで「定型手続きは内製+クラウド、判断が要る場面はスポットまたは顧問」という組み合わせで見積もりを取り直す。この順番なら、過不足のない契約になります。

買う前に確かめること

  • 算定基礎届と年度更新が月額に含まれるか、年額で確認したか
  • 従業員数の数え方とレンジ変更時の改定ルールを書面で確認したか
  • 就業規則などの成果物を編集可能な形式で受け取れるか決めたか
  • 解約予告期間と自動更新の更新月を社内カレンダーに入れたか
  • 預けた原本とデータの返還・消去の取り決めがあるか確認したか
  • 直近一年の手続き件数と社内工数を数え、比較資料を作ったか

候補になる分類

手続き代行中心型の顧問契約(入退社・算定・年度更新まで込み)

目安:月額2万〜6万円程度+年次業務

入退社がそれなりに多く、総務が兼任で手が回らない会社に向きます。月額に年一回の算定・年度更新を含む形にすると、年額が読めて稟議も通しやすくなります。

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相談・労務リスク対応中心型の顧問契約(手続きは自社、判断は外部)

目安:月額1万〜4万円程度

手続きはクラウドで自社処理できているが、休職・退職・ハラスメント対応などの判断に不安がある会社向けです。相談回数や対応範囲の上限を契約時に確認してください。

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スポット依頼(就業規則の作成・改定、労基署調査対応、労使協定)

目安:1件10万〜40万円程度(内容による)

顧問は置かず、必要な場面だけ都度依頼する形です。件数が少ない会社では総額を抑えられますが、繁忙期は着手が遅れることがあるため、余裕をもって依頼する前提が要ります。

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労務手続きのクラウドサービス+顧問の併用

目安:月額数千円〜2万円程度+顧問料

従業員が自分で情報を入力し、電子申請まで自社で回す形です。社労士側もそのシステムを扱えるかを事前に確認しないと、二重入力になって手間が増えます。

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よくある質問

顧問料の相場はどれくらいですか。

従業員数のレンジで決まる形が一般的で、10〜30人規模なら月額2万〜4万円程度から提示されることが多いようです。ただし算定基礎届や年度更新、離職票が別料金かどうかで年額は大きく変わります。月額ではなく、想定件数を伝えたうえでの年額で比べてください。

給与計算も同じ事務所に頼んだほうがよいですか。

社会保険料や雇用保険の情報が共通なので、まとめると二重連絡が減る利点があります。一方で、まとめるほど解約時の引き継ぎは重くなります。まとめる場合は、給与データの受け渡し形式と、解約時に過去データをどの形式で返してもらえるかを先に決めておくと安全です。

助成金だけを社労士に頼むことはできますか。

できます。多くは受給額に対する成功報酬型で、着手金が別にかかる場合もあります。ただし助成金は就業規則や賃金台帳の整備が前提になることが多く、そこの修正費用が別途発生することがあります。着手前に、費用の総額と不支給だった場合の扱いを書面で確認してください。

今の社労士を変えたいのですが、いつ切り替えるべきですか。

入退社が集中する時期と、算定基礎届・労働保険の年度更新がある6〜7月は避けるのが無難です。解約予告期間(多くは1〜3か月前)を逆算し、閑散期に重なるよう計画してください。旧事務所には未処理案件の一覧を出してもらうと、抜けが防げます。

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