就業規則の改定、総務が社労士に頼む前に決める不利益変更と周知
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この記事を読むと、就業規則の改定を「誰に」「どこまで」頼むかを、社内で説明できる形で決められます。判断の中心は社労士の見積額ではありません。「何のために直すのか」「従業員に不利な変更が含まれるか」「直したあと、どう知らせて、どう保管するか」の3点です。ここを決めずに雛形を手に入れても、作った規則が現場で効かない状態になりがちです。改定作業そのものより、改定後の運用でつまずく会社のほうが多いのが実情です。
改定の理由を3種類に分けると、社内説明が通る
就業規則を直す理由は、だいたい次の3つに分かれます。混ぜて稟議に出すと、経営から「今やる必要があるのか」と返されます。
- 法改正への対応。育児・介護に関する休業や、ハラスメント防止、時間外労働の上限など、法令が変わると規則の記載も合わせる必要が出ます。これは「やらない選択肢がない」種類です。
- 制度を新しく入れる、または変える。テレワーク、副業、フレックス、評価と連動した手当などです。会社の意思で決める種類で、入れるかどうかの議論が要ります。
- 実態とのズレを直す。規則には週休2日と書いてあるのに運用が違う、手当の名前が実在しないものになっている、といった状態です。放置すると、労働基準監督署の調査や助成金の申請、労使のもめごとで必ず表に出ます。
稟議には、この3種類のどれなのかを最初に書いてください。法改正対応は期限が外から来るので通りやすく、制度変更は社内の合意形成に時間がかかります。両方をひとつの稟議に詰め込むと、議論が止まった制度変更に引きずられて、期限のある法改正対応まで遅れます。分けて出すほうが安全です。
一番こわいのは不利益変更。同意の取り方で結果が変わる
就業規則の改定でもっとも神経を使うのは、従業員にとって条件が下がる変更です。手当の廃止、支給額の引き下げ、休暇日数の削減、退職金の算定方法の変更などが当たります。
労働契約法では、就業規則を変更して労働条件を不利に変えるには、原則として労働者の合意が必要とされ、合意がない場合は変更内容の合理性や周知などが問われる、という枠組みになっています。条文の詳細と最新の解釈は、社労士や弁護士に確認してください。
実務で問題になりやすいのは、次のような進め方です。
- 説明会を1回開いただけで「説明済み」としてしまう。何を説明し、誰が出席したかの記録が残っていない。
- 同意書を回したが、署名を断れない空気の中で集めている。
- 移行措置を置かずに、翌月からいきなり新しい基準にする。
不利益変更を含むなら、代償措置(下げる代わりに別の形で補う)や経過措置(数年かけて移行する)をセットで検討するのが一般的です。そして、説明資料・質疑の記録・同意書を一式で残します。もめたときに見られるのは、規則の文言より、この手続きの跡です。
意見聴取・届出・周知。3つのうち抜けやすいのは周知
作った規則を有効に運用するには、手続きが要ります。常時10人以上の労働者がいる事業場では、就業規則の作成・変更について、過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、意見書を添えて労働基準監督署に届け出る、という流れが基本です。細かい取り扱いは窓口や制度の改正で変わるため、所轄の労働基準監督署の案内で確認してください。
ここで詰まりやすいのが3点あります。
- 過半数代表者の選び方。会社が一方的に指名した人の意見書は、手続きとして疑問が残ります。挙手、投票、持ち回りの書面など、選んだ過程がわかる記録を残します。管理監督者は代表者になれない扱いです。
- 事業場ごとの届出。支店や営業所が別にあると、原則は事業場単位です。本社一括で届け出られる場合の条件もあるので、拠点がある会社は先に確認します。
- 周知。これが一番抜けます。届出をして安心し、現場のファイルには古い版が残ったまま、ということが起こります。誰でも見られる場所への備え付け、書面の交付、社内ネットワークでの掲示などの方法が示されています。共有フォルダに置くなら、ファイル名に施行日を入れ、旧版は別フォルダに移してください。
本則に全部書くか、別規程に切り出すか
改定のたびの手間は、規程の構成で決まります。賃金、退職金、育児・介護休業、安全衛生、テレワーク、ハラスメント防止などを本則の中に書き込むと、一箇所直すたびに本則全体の改定手続きになります。
別規程に切り出しておくと、変わった部分だけを直せます。ただし、別規程も就業規則の一部として扱われるため、意見聴取や届出、周知が必要になる点は同じです。「別紙だから手続きは不要」という理解は誤りです。
切り出しを検討しやすいのは、変更の頻度が高いもの、対象者が限られるもの、法改正が続くものです。育児・介護関係は改正が重なりやすく、独立させておくと管理が楽になります。
もうひとつ、文書の版管理を決めておいてください。よくあるのは、社労士からWordで届いた最新版と、社内の共有フォルダにあるPDFと、紙のバインダーの3つが食い違う状態です。正本をどれにするか、改定履歴の表を規程の末尾に付けるか、総務の誰が保管するか。これを先に決めておくと、数年後の担当者交代で助かります。助成金の申請や労務の調査で「該当条文を出してください」と言われたとき、どれが有効な版かわからない、という事態を避けられます。
社労士への頼み方と、見積に入りにくい費用
改定の実務は、社労士に依頼するのが一般的です。頼み方は大きく2通りあります。
- 顧問契約の中で対応してもらう。月額の顧問料に、軽微な改定が含まれる契約もあります。ただし「全面改定は別途」と但し書きがあることが多いので、契約書の業務範囲を読み直してください。
- スポットで依頼する。全面的な作り直しや、退職金・賃金といった重い規程の新設に向きます。
見積を取るときに確かめる点は次のとおりです。
- どの規程までが一式に含まれるか。本則だけで、賃金規程や育児介護休業規程は別料金、という切り分けはよくあります。
- 説明会の実施や、従業員向け資料の作成は含まれるか。
- 意見聴取の進め方の助言、届出の代行は含まれるか。電子申請で代行してもらう場合の条件も聞いておきます。
- 修正の回数に上限があるか。社内の意見が割れると、往復が増えます。
見積に出ないのに発生するのが、社内の時間です。たたき台の読み合わせ、経営への説明、現場からの質問対応で、総務の担当者に相応の工数がかかります。稟議には、外注費だけでなく「社内で何時間使うか」の見込みも書いておくと、スケジュールの無理が先に見えます。
改定して終わりではない。あとから直すものが必ず残る
規則を直すと、連動して直すものが出ます。ここを放置すると、書類の間で内容が食い違います。
- 労働条件通知書と雇用契約書の雛形。手当名や所定労働時間を変えたなら、入社時に渡す書類も合わせます。
- 給与計算と勤怠システムの設定。締め日、割増率、休暇の付与ルールを変えた場合は、設定変更とテスト計算が要ります。改定の施行日と給与の計算期間がずれると、初月の計算で混乱します。
- 申請書類の様式。休暇の申請書や各種届出の用紙に、古い制度名が残りがちです。
- 入社時オリエンの説明資料。
また、制度は入れるより下げるほうが難しい、という性質があります。新しい手当や特別休暇を入れるときは、将来やめるとき・減らすときに不利益変更の手続きが必要になる前提で設計してください。期限付きで試行する、対象を限定する、といった形にしておくと、見直しの余地が残ります。
進め方の順番としては、①改定理由を3分類に整理、②不利益変更の有無を洗い出す、③社労士に範囲を伝えて見積、④たたき台を経営と確認、⑤説明と意見聴取、⑥届出、⑦周知と記録、⑧関連書類とシステムの修正、という流れが現実的です。施行日から逆算して、意見聴取と説明に余裕を持たせてください。
買う前に確かめること
- 今回の改定が法改正対応か、制度変更か、実態の是正かを分けて書けるか
- 従業員に不利になる変更が含まれるか、含むなら代償措置と経過措置を検討したか
- 過半数代表者をどう選ぶか、その過程の記録を残す方法を決めたか
- 見積に賃金規程や育児介護休業規程が含まれるか、修正回数に上限があるか
- 周知の方法と、閲覧・配布の記録をどこに残すかを決めたか
- 施行日に合わせて雇用契約書の雛形と勤怠・給与の設定を直す担当を決めたか
候補になる分類
社労士へのスポット依頼(就業規則の改定一式)
目安:規程の範囲により十数万円〜数十万円程度
全面的な作り直しや、賃金・退職金のような重い規程を触る会社に向きます。顧問契約がない会社でも依頼できますが、含まれる規程の範囲と修正回数の上限を見積段階で確認してください。
これは申し込む形のサービスです。提携が決まりしだい、ここに申込先を載せます。
規程の版管理と社内周知ができるツール(閲覧記録が残るもの)
目安:月額 数千円〜数万円程度
拠点が複数ある会社や、在宅勤務が多い会社に向きます。誰がいつ閲覧したかの記録が残る形にしておくと、周知の裏づけを後から示しやすくなります。既存のグループウェアで代用できる場合もあります。
これは申し込む形のサービスです。提携が決まりしだい、ここに申込先を載せます。
就業規則・労務管理の実務解説書(モデル就業規則の逐条解説)
目安:2千〜5千円程度
社労士に丸投げせず、たたき台を読める状態にしたい担当者に向きます。改正が頻繁な分野なので、発行年と対応している法改正の時点を確かめてから買ってください。
よくある質問
従業員が10人未満なら、就業規則は作らなくてよいのですか。
常時10人以上の事業場に作成・届出の義務があるとされており、10人未満なら法律上の義務は生じないのが原則です。ただし、休暇や手当の扱いを口約束で運用すると、後から解釈が割れます。助成金の中には就業規則の該当条文の提出を求めるものもあるため、将来の採用計画と合わせて判断するのが現実的です。
社労士に頼まず、ネットの雛形で作っても問題ありませんか。
雛形から始めること自体は否定されません。問題になるのは、自社の実態と合わない条文がそのまま残る場合です。賃金、労働時間、休職、退職の条文は会社ごとに事情が違うため、少なくともこの部分は専門家の確認を受けることをおすすめします。
改定した規則は、いつから効力が生じますか。
一般には、労働者に周知されていることが前提になります。届出をしただけで現場に知らせていない状態は避けてください。施行日を規則の附則に明記し、説明と配布の記録を残すのが安全な進め方です。
手当を廃止したいのですが、全員の同意書が必要ですか。
個別の合意を得るのが基本です。合意が得られない場合でも、変更の合理性などが認められる余地はありますが、判断は事案ごとに異なります。代償措置や経過措置を用意し、説明の記録を残したうえで、社労士や弁護士に個別に相談してください。